30年以上にわたり日本政治、日本と国際社会の関係を取材し続けてきたオランダ人ジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレン氏(アムステルダム大学名誉教授)は、日本には哲学や理念が感じられない「偽りのポピュリズム(False Populism)」が広がりやすいと指摘する。
その典型が細川護煕元首相や小泉純一郎元首相が行なった「改革」だというのだ。以下、ウォルフレン氏が二人の改革と、現代の「ポピュリズム」の表れだという橋下徹大阪市長について分析する。
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結局、彼らの改革とは、有権者の間に溜まった不満の「ガス抜き」程度に過ぎなかった。政治や社会の在り方を変えるような「根本的な改革」ではなかったわけだ。
大阪で府知事、市長として政治家のキャリアを重ねる橋下は、自らが率いる「大阪維新の会」での国政進出を目指している。しかし、細川や小泉と同様、私はこのままでは橋下にも「根本的な改革」は難しく、「偽りのポピュリズム」になってしまうと見ている。
その理由のひとつが、彼が設立した「維新政治塾」である。同塾には3000人を超える応募があったと聞く。しかし、政治家とは“ジュク”で養成できるような存在でない。モデルとなったとされる松下政経塾にしろ、国会議員だけは数多く輩出しているが、いずれもろくなものではない。
維新政治塾では、橋下ブレーンを務める「脱藩官僚」たちが、講師として塾生を教育するようだ。だが、政治家は官僚によって育てられるようなものではない。例えば、講師の1人に、単に米共和党の特定グループの利益を代弁しているに過ぎない元外務官僚の名前が挙がっている。彼らが講師を務める維新政治塾に何が期待できるというのか。
そもそも、官僚と政治家は全く性質が異なる存在だ。官僚には、自ら動いて問題を見つけようとする発想がない。彼らの仕事は、すでに判明している問題を解決することだからだ。自分たちの無知すら認めようとはしない。一方、有能な政治家には、物事を突き詰めて考え、本質的な問題を発見する力が必要である。
その意味で、現首相の野田佳彦には全く幻滅している。財務省の言いなりとなって消費税増税に突き進む姿は、政治家のあるべき姿とはかけ離れている。
確かに、日本が抱える膨大な財政赤字は放置すべきではない。とはいえ、今が消費税を上げる時期とは思えない。増税なしには「日本が第二のギリシャになる」との意見もあるが、それこそ財務省官僚による脅し文句だ。日本とギリシャの状況は全く違う。デフレ下の日本で消費税を上げれば、逆に税収が落ち込むのは目に見えている。
政治家に官僚と対立すべきだと言っているのでない。官僚をうまく使いこなしてこその政治家なのだ。
■聞き手・構成/出井康博(ジャーナリスト)
※SAPIO2012年5月9・16日号