週刊ポストは小沢一郎・民主党元代表が4月26日の裁判で無罪でも大メディアは“有罪扱い”を続けるだろうと指摘してきた。そのとおりに、まさに知性と品性をかなぐり捨てた剥き身の権力派メディアが、なおも国民を欺き続けようとしている。
党内ではいよいよ小沢氏の党員資格停止処分を解除する手続きが始まる。だが、国会では野党と一部の与党議員が小沢氏の政治的復権阻止にスクラムを組んだ。後押ししているのが大メディアの“無罪で疑惑が深まった”という奇妙な論理だ。
速報のテレビは、判決直後からエキセントリックな報道を展開した。
〈微妙な判断 なぜ無罪〉(TBS『Nスタ』)
〈報告・了承を認定 なぜ無罪?〉(フジテレビ『スーパーニュース』)
――と、「なぜ」を連発した。『スーパーニュース』のキャスター・安藤優子氏は「私たち素人の感覚」と断わったうえで、「真っ白けの無罪だとは到底いえないといっていいんですよね」と不満を叫んだ。素人ならそんなところで偉そうにしゃべらないほうがいい。
さらに各ニュース番組は街頭インタビューを行ない、「無罪はおかしい」という声を一斉に流した。都合よく選んだ“国民の声”を使ったネガティブキャンペーンである。
判決を「黒に近いグレー」と表現したのはテレビ朝日『報道ステーション』にコメンテーターとして出演した元特捜検事だ。それを受けて解説者の三浦俊章・朝日新聞解説委員は、
「(無罪判決は)疑わしいけれども断定まではできないから。(小沢氏には)説明責任を果たしてもらいたい」
と、無罪の被告に説明責任を求めた。裁判で真実が明らかになるといって強制起訴を支持したのはどこの誰だったか。
それに呼応して自民党や公明党が証人喚問要求を突きつけるという、これまで何度も繰り返された「政・報一体」の小沢叩きの連携プレーを見せつけた。
朝日新聞は翌日の社説で〈政治的けじめ、どうつける〉と題し、小沢氏の復権を許さないと書いた。
〈刑事裁判は起訴内容について、法と証拠に基づいて判断するものだ。そこで問われる責任と、政治家として負うべき責任とはおのずと違う。政治的けじめはついていない。きのう裁かれたのは、私たちが指摘してきた「小沢問題」のほんの一部でしかない〉
「裁判は無意味だった」と言い放った。無罪が言い渡された今、“刑法ではセーフだが、政治家としてはアウト”という新論理を創作したのだ。つまり、裁判などどっちでもよく、自分たちがあらかじめ決めていた結論こそすべてなのだ。
読売新聞も同じ日の社説で〈政治家としての道義的責任も免れない〉と書き、小沢復権阻止で一致しているが、理由はもっとわかりやすい。こう主張した。
〈党内には、小沢氏を要職で起用する案もあるが、疑問だ。「政局至上主義」的な小沢氏の影響力拡大は、消費税問題を混乱させるだけで、良い結果を生むまい〉
小沢氏が問うているのは、増税や原発再稼働の是非である。なぜそれが「政局至上主義」なのか。“小沢だから悪”とか“財務省がいうから増税”とか、挙げ句には“増税のためには大連立”などと書く大新聞こそ政局至上主義である。
無罪判決ははからずも大メディアの危険な本質を国民に浮き彫りにした。メディア社会学が専門の服部孝章・立教大学教授が語る。
「判決後の報道をつぶさにみてきたが、各メディアとも本来は切り離して論ずるべき判決報道と消費税法案がどうなるかという政局報道をゴチャ混ぜにして報じている。これはメディアが司法判断をもとに自分たちの政治的主張を述べているようなもので、報道として公正ではありません」
※週刊ポスト2012年5月18日号