日本政府の弱腰外交につけ込み中国が傍若無人な振る舞いを増長させている。尖閣諸島海域では平然と領海を侵犯して恥じるところがない。橋下徹首相待望論も高まっているが、橋下氏なら中国に対して毅然とした態度をとることができるだろうか。評論家の金美齢氏が橋下氏の対中政策を占う。
* * *
橋下氏は中国政策についてどのような考えを持っているのか。今年2月、名古屋市の河村たかし市長が南京事件を否定する発言をしたことについて、「公選の首長は歴史家ではない。慎重にすべきだ」と批判する一方、中国側が反発を強めていることについては、「過剰な反応はすべきでない。堂々と河村市長に抗議すればいい」と言うに止まった。
翌3月、政府が主催した東日本大震災の1周年追悼式典で、台湾の代表が指名献花から外される扱いを受けたことについて問われた際には「外交問題だから、ここで軽々にコメントできない」と、やはり明言を避けている。
政権公約「維新八策」にも、日米同盟を基軸にしつつ、オーストラリアとの関係を強化、日米豪で太平洋を守るという外交・防衛政策が記されているだけだ。私の希望としては中国に対する厳しい姿勢を政策に盛り込んでもらいたかった。
日本の国益を考えた場合、日米中の安全保障関係は「日米同盟対中国」という構図でなければならないのは自明である。思い起こせば、民主党が政権を握った時、当時の首相だった鳩山由紀夫氏ら同党首脳は愚かにも「米国なしの東アジア共同体の構築」「日米中の関係は正三角形」などと発言。米国を失望させるとともに、中国に誤ったメッセージを送ってしまった。
鳩山氏が能天気に「友愛外交」などと笑顔を振りまいている間に、中国は沖縄近海を「自国の海」にするために着々と手を打っていたのは、改めて申すまでもあるまい。そうした中で勃発したのが、あの尖閣沖の中国漁船衝突事件(2010年9月)だった。
私は常々「中国に一歩譲ったら二歩攻め込まれる」と言い続けてきた。今日こちらが譲ったら、明日は相手が譲ってくれるというような考え方が通用する世界ではない。相手が弱いとみたら嵩(かさ)にかかってくるのが中国なのだ。
1989年の天安門事件以来、一部の日本人は中国の真の姿が分かるようになってきた。しかし政治家は未だに中国に対して「ノー」が言えない。中国から何か言われたら、すぐにひれ伏し、媚(こび)を売っているのが現状だ。2009年に民主党議員ら600人以上を引き連れて訪中、胡錦濤と会見した小沢一郎・同党幹事長(当時)などを見ていると情けなくなる。こんなことで中国と対等に付き合えるはずがないのだ。
もちろん頭の回転が早い橋下氏は、そうした対中外交の問題点を百も承知のはずである。首相になったとしたら、中国に対しては是々非々で臨み、「ノー」と言うべきときにはハッキリ「ノー」と意思表示するなど、毅然とした態度で日本の国益を守ってもらいたい。
「白黒つける」のが持ち味なら当然であろう。そうすれば、尖閣事件で中国漁船の船長をみすみす帰国させるようなことはしない。民主党のような土下座外交では、ますます中国につけ込まれるだけだ。
※SAPIO2012年5月9・16日号