スポーツ選手にとって道具は何より大切なもの。道具次第で成績が大きく変わることもある。ここではイチローのグラブを制作する“グラブマイスター” 岸本耕作(54)氏を紹介する。
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イチローを始めとするプロ選手200人のグラブ製作を担当する岸本氏は、ミズノインダストリー波賀入社以来36年、グラブ製作ひと筋。現在は社内最高位の『グラブマイスター』。16~17年前に、工場がプロ選手らのオーダーに特化するようになり、グラブ名人と呼ばれた坪田信義氏の後継者としてイチローのグラブも担当するように。
「2006年5月、初めて製作したグラブをシアトルに持っていきました。6個のグラブに手を入れると、黙って首を傾け、『違います』と。2回目に持っていった際には見る前から『見るのが怖いですね』とおっしゃられました」
一度手にはめてしっくりこないと練習でも使用しなかったというイチロー。同一人物が作ってもバラつく天然の牛革を使って手作業で何度も作り上げた。背面も独特だ。多くのプロ野球選手が厚さ1.8ミリのところ1.1~1.2ミリ。「0.5ミリ大きくしてくださいなど、ミリ単位のリクエストも多い」というが、いまでは年に4~5個のグラブを使用。先日、シカゴ・ホワイトソックスの福留孝介を初捕殺したイチロー。岸本氏を鼓舞する何よりの返事だろう。
撮影■辻村耕司
※週刊ポスト2012年5月18日号