緊迫したゲーム展開の中、スタンドから投げられる辛辣なヤジは「球場の華」とも呼ばれる。贔屓チームを愛するからこその“味方への叱咤”や“敵選手への口撃”を一挙蔵出し――。
12球団で最もヤジが激しいのはやはり阪神。特に甲子園での宿敵・巨人との対戦ともなれば、ライトスタンドから過激なヤジが十字砲火のごとく巨人選手に浴びせられる。メインターゲットは開幕直前の“裏金問題”で名前が取り沙汰された選手。特に4番・阿部が登場すると、阪神ファンは勢いづく。
「おーいアベ~、清武サンが見にきとるぞー!」
「背中のローマ字が間違っとるぞー。A、Bの次は“E”やのうて“C”やろが~。カネの計算ばっかりせんと、中学英語からやり直せー」
ライトの守備位置につく高橋由も血祭りに上げられる。
「ヨシノブ~、カネ貸してくれー!」
すると隣のファンが、「イジメんといたれや~。減価償却終わってへんねん」と、近年は成績がサッパリ高橋由をさらにオトす。
鳴り物入りでFA移籍しながら、低打率にあえぐ村田にはこんな声が飛ぶ。
「キングボンビー!(※1)借金作るのはうまいのう~」
が、阪神が劣勢になると、矛先は容赦なく虎ナインに向けられる。先発の能見が連続安打を浴びると、「ストライクばっかり投げおって、ファミスタとちゃうぞー!」、調子の上がらない平野には、「身長(169cm)より低い打率でどないすんねん」、吉野家ファンとして有名なマートンには、「タイムリー頼むでー。牛丼やなくて打点を特盛にせんかい!(※2)」といった具合だ。
かわいそうなほど罵声を浴びるのは新井貴。エラーすると、
「キャッチボールからやり直せ! 今季2度目のアラー、いやエラー、ご苦労さん」
「オイオイ、守備で目立たんでもええんやぞ」
「選手会ばっかりやっとるからや~!(※3)給料どこからもらっとるんじゃ~」
などとボロクソだ。しかし、次の打席でヒットを放つと、「よ~やった! さすが新井や」と大喝采。現金なものである。
対照的に“アニキ”こと金本にファンは温かい。肩に故障を抱え、満足に守備ができない金本だが、なぜかヤジはショートの鳥谷に飛ぶ。「鳥谷、オマエは“ショフト”や。アニキの分もちゃんと守れ」。際どいコースをストライクと判定され、金本が不満げに球審を見ると、「佐藤(球審)! アニキがボールいうたらボールじゃ!」ところが、ここでおとなしかった巨人ファンがすかさず反撃。
「金本~! (島田)紳助は引退したぞ~!」
【※1】TVゲーム『桃太郎電鉄』の名物キャラクター。小太りの貧乏神で、これが取り憑くとプレーヤーは借金地獄に陥り、ほぼ間違いなく最下位に転落する。
【※2】来日した2010年、ブラゼルに連れて行かれて吉野家の虜になった。以来、店に行くと特盛り2杯を食べ、自宅には吉野家の「牛丼の具」冷凍パックを常備。昨年には吉野家から特盛用の特製どんぶりを贈呈され、自宅ではマートン自ら牛丼を作っているという。
【※3】新井貴は日本プロ野球選手会の現会長。
※週刊ポスト2012年5月18日号