隅田川にうっすら青いLEDライトを10万個流し、その脇にたつ「東京スカイツリー」の照明も全点灯させる。隅田川花火大会に匹敵するイベントになるかと注目される「東京ホタル」だが、華やかさの裏には悲喜こもごもの裏方たちの苦労があった。現場取材したネット文筆家の奈良巧氏が報告する。
* * *
連休中に注目を集めた「東京ホタル」。5月5日、6日に東京・浅草で行われたイベントで、ハイライトは5月6日の日没後、「いのり星」と名づけられた発光体が隅田川に流される催しだった。
隅田川にうっすら青いLEDライトを10万個流し、その脇にたつ「東京スカイツリー」の照明も全点灯させる。「スカイツリーの照明も『いのり星』もすべて当社のLED照明を使っています」と特別協賛のパナソニックの担当者が語るように、省エネルギーと美しさが強調された。
ところが舞台裏では、第1回ならではの「産みの苦しみ」が繰り広げられていたのだ。
完全にオープンエアなイベント会場。第一の問題は雨だった。夕方17時過ぎには、イベントが行われる浅草には大粒の雨が降った。「予報によれば、今晩もう一回スコールが来るらしいんです」現場のイベントスタッフからは、悲鳴のような声が上がっていた。
幸いなことに心配された雨も振らない中、18時半の「いのり星」の放流時間が近づいてきた。放流エリアは隅田川の言問橋付近から、吾妻橋方向に向けて。
「いのり星」は直径85ミリ、グレープフルーツくらいの大きさの球体で、中には太陽電池と充電式の単三ニッケル水素電池、LEDライトが入っており、水の中に投げ込むだけで光る仕組みになっている。
放流の直前に心配されたのは、川の流れとは逆に風が強く吹き始めたことだ。
川の流れは言問橋から、吾妻橋方向。この流れに乗れば、問題なくイベントは進むのだが、強風によって川の片側に発光体が偏ったり、予想と逆方向に流れてしまうと大変だ。
「そういうことは考えたくないですね。ここまで完璧な準備はしてきましたから、あとは運を天にまかせるしかありません」(代理店関係者)と、現場では困惑顔。
この10万個の「いのり星」は、川に流しっぱなしではなく、「全数を完全回収」(主催スタッフ)するもの。だから、下流にのみ捕獲用の網が設けられている。万が一予想以上の強風が吹いた場合には、イベント会場に光が無くなってしまう可能性までが考えられた。
スタッフの祈りが通じたのか、放流の時点では強風も収まり、ホタルのような光は川の流れに沿って無事に流れたのだった。
ところで、ここからさらにがんばった影のスタッフがいる。下流の網に引っかかった「いのり星」を船からすべて回収。即刻上流に移動してそこからまた「再放流」をするスタッフだ。
青や赤いネオンで輝く屋形船の間に目をこらすと、真っ暗な中で上流から下流に行き、回収を行い、即刻上流に移動して「いのり星」をばら撒く。このスタッフの奔走があってこそ、2時間半のイベントの間、隅田川を「ホタルの光」がうずめることができたというわけだ。
結局大成功に終わり、スタッフの間から自然に「万歳!」の声が挙がった。5月の連休シーズンに当て込み、20万人の人出を見込んだ大イベント。春の桜、夏の隅田川花火大会に続き、今後も続いて行くことだろう。