橋下徹・大阪市長は脱原発を、6月8日に行われる関西電力の株主総会で主張する可能性あるが、この件の危うさを指摘するのは大前研一氏だ。以下、大前氏の解説だ。
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ここから先、橋下市長が失速しないために私がアドバイスしたいことは、統治機構の変革と無関係の“余計な喧嘩”をしない、ということだ。余計な喧嘩とは、たとえば関西電力との喧嘩である。
橋下市長は、6月の関電の株主総会で、同社の筆頭株主である大阪市が、全11基の原子力発電所を「可及的速やかに廃止する」など、同社定款の変更を求める8議案を提案する方針だ。さらに大飯原発3・4号機(福井県おおい町)の再稼働を認める際は原発から100km以内の自治体の同意を得るなどの8条件を、関電と国に突き付けている。
だが、実は関電は全原発が停止したまま昨年並みの暑さの夏が来たら、電力供給力がマイナス9%になる。一昨年並みの猛暑が来ると、マイナス19%になってしまう。マイナス9%というのは、単に電力消費量を9%削減すればよいということではない。ブラックアウト(大停電)を避けるためには10%の余力を見ておかねばならないので、19%の削減が必要となる。一昨年並みの猛暑に備えるなら、29%削減しないといけない。
夏のピーク時に電力消費量を19%削減するのは、かなり難しいと思う。ピークロード(電力需要が最大になる時)をずらさなければならないから、関西の企業や店舗は昨夏の首都圏のように休日を変更したり、夜間の営業時間を短縮したりしなければならない。経済は全く気勢が上がらない状況になる。29%削減は、ほぼ不可能と考えたほうがよい。
なぜ10%の余力が必要なのかというと、今、関電はこれまで止めていた古い火力発電所を再稼働して使っているので、それがダウンする可能性がけっこうあるからだ。大阪の場合だと、大きな火力発電所が1つダウンすると電力供給力が5%くらい低下する。その時、電力消費量が95%に達していたら、ブラックアウトが起きてしまう。ひとたびブラックアウトが起きたら、市民生活は大混乱に陥る。病院などでは死者が出るかもしれない。だから、常に10%ぐらいの余力を確保しておかねばならないのだ。
橋下市長が関電いじめを続け、大飯原発3・4号機を再稼働させないままにしたとする。その結果、1回ブラックアウトが起きたら、財界は“橋下ブラックアウト”と呼ぶだろう。それで彼の政治生命は「ジ・エンド」だ。
しかし、私自身が調査・分析し、すでに公表している(http://pr.bbt757.com/)ことだが、大飯原発3・4号機は福島第一原発と同じような事態になっても、必ず冷却ができる。再稼働しても問題はない。
橋下市長が大阪をピカピカに磨きたいなら、関電の電力供給力に余裕を持たせて大阪の電力を安定的な状況にしておくことは、彼にとっても(もちろん市民にとっても)得なはずである。逆に言えば、関電と喧嘩して大阪が電力不足になって得なことは1つもないのである。
国民が期待しているのは、関電に喧嘩を売る橋下市長ではなく、日本を変えてくれる希望の星としての橋下市長だということを忘れないでもらいたい。
※SAPIO2012年5月9・16日号