国内での牛のレバ刺し販売が6月中に全面禁止になる。全面禁止という厳しい措置をとるのなら、「牛レバーが他の規制されていない食品よりどれぐらい危険なのか」を示すために、感染率や死亡率など明確なデータに基づく基準を提示してしかるべきだろう。
その点について厚生労働省に質したが、データは何も持ち合わせていなかった。
「本来、蓄積したデータを元に国民にとって有害であるものを規制対象とするのが前提。しかし今回の規制は特別で、薬事・食品衛生審議会による検証の結果、牛レバーからO157など腸管出血性大腸菌を取り除く手段が確立していないことがわかった。そのためのやむを得ない措置なのです」(同省医薬食品局食品安全部基準審査課)
厚労省は、O157に汚染されない牛レバー解体処理が可能であるかを再三検証し、不可能であったと主張する。
それも甚だ疑わしい。
東京大学「食の安全研究センター」が厚労省から依頼されたのは、牛の解体処理時に胆管などを縛ることで胆汁の逆流を防ぎ、レバーのO157汚染を防ぐことができないかという検証のみ。関崎勉・センター長自らがこういう。
「調査期間は1か月ほどしか与えられず、中途半端なデータの提出だけに終わってしまった。さらに検証を続けていれば、O157汚染は未然に防げるという結果が得られた可能性は高い。とにかく全面禁止という結論ありきの姿勢が窺えた」
同じく審議会に出席した、社団法人日本畜産副産物協会の野田富雄・専務理事も、同様の感想を述べる。
野田氏は、過去20年間の牛の生レバーによる食中毒発生件数の少なさ(昨年は12件61人死者0)、生産段階でO157に汚染された肉牛が全体の1割にも満たないことなどを説明し、全面禁止がいかに暴挙かを説明したが、厚労省の規制推進派はまったく聞く耳を持たなかったという。
「食中毒を引き起こす可能性がある食品について、定期的に注意喚起したり指導し続けていくことは、行政にとってコストと労力がかかるわけです。ですが、ひとたび食中毒が発生すれば大マスコミや世論から攻撃を受けてしまう。いわば“厄介な存在”です。その点、規制してしまえば、あとは違反を見つけて摘発すればいいだけ。いわば、牛レバー規制は、責任逃れのアリバイにされたわけです」(野田専務理事)
※週刊ポスト2012年5月18日号