人間の咽頭は鼻に近いところから上中下に分類され、下咽頭は喉仏の後ろ側にあたる。食物は中咽頭から下咽頭を経て食道、胃へと流れていき、鼻腔からの空気は上咽頭、中咽頭、喉頭を経て気管から肺に入る。
ノドの奥の食道と気管の分岐に近いところにできるのが、下咽頭がんだ。下咽頭がんの危険因子は喫煙と飲酒で、特にアルコールが体内で分解されて生じるアルデヒドが強力な発がん物質となる。
酒に弱いのに鍛えて強くなった人は、本来アルデヒドの分解能力が低く体内にアルデヒドを蓄積しやすいため下咽頭がんを発症しやすい。発症は50~60代の男性が60%を占め、女性より男性が圧倒的に多い。
国家公務員共済組合連合会立川病院耳鼻咽喉科の佐藤靖夫部長に話を聞いた。
「咽頭のがんは、粘膜にできる“扁平上皮がん”がほとんどです。近くには喉頭や頸部リンパ節があり、進行するとそれらへの浸展も多く見られます。自覚症状が少なく、下咽頭がんの60%以上は、初診時にはすでに周囲組織への浸潤や頸部リンパ節に転移している進行がんです」
下咽頭がんは早期ではほとんど症状がない。少し進行するとノドに違和感がある。違和感は錠剤や唾液を呑み込む時よりも、食事の時に強く感じることが多い。数か月経過してさらに進行すると、食事が呑み込めない(嚥下困難)や嚥下痛、声がれ、リンパ節転移による頸部の腫れなどが起こる。
下咽頭がんは進行が早いので、発症リスクの高い常習飲酒・喫煙の中高年男性は、ノドの違和感を少しでも感じたら、面倒くさがらずに早めの耳鼻咽喉科の受診が不可欠である。
(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2012年5月18日号