夜汽車の旅情にホテル並みの快適さをそなえた寝台特急、サンライズエクスプレスが女子やリタイア夫婦などに大人気だ。東京駅から出雲市へ向かうこの寝台。女同士、個室でくつろぐのもいいし、夫婦でゆっくり語りつくすのもまたいい。鉄道マニアの本誌名物記者・オバ記者(55才)が「サンライズ出雲」の乗車から就寝までの過ごし方をレポートする。
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【22:00 東京駅出発】
ほぼ満員となる乗客を乗せて定刻通り出発! サンライズエクスプレスは毎日、1往復運行していて、出発が飛行機の最終便と比べると3時間以上も遅いから、金曜日には仕事を終えてから乗り込む人も多いそうな。
近距離通勤者と、寝台列車の旅に出る人がひとつホームに入り乱れる中、東京駅の「グランスタダイニング」で買い込んだお総菜やお弁当、缶ビールを持って、スター列車に乗り込む晴れがましさといったら(ちなみにサンライズには車内販売はなく、ソフトドリンクの自販機のみ)。
「おーっほほほ。なんか他の人に悪いみた~い」
西太后のような気分で列車に乗り込もうとすると、
「到着まで12時間もかかる列車に、すでにぼくは疲れてますけど。はぁ~」
札幌出身なのに、修学旅行以来、一度も寝台列車に乗ったことがない編集Oくんは体内“鉄分”ゼロ。「シングルの上階と下階の個室をとってますけど、眺めのいい上階のほうがいいんですよね?」というから、「私は線路を背中で感じられる下階!」。すると、「遠慮しなくていいですよッ」という。
どこまでいってもカミ合わない会話をしつつ、オバは心に決めた。よしっ、こやつの体に“鉄”を注入しちゃる、と。
【22:15 乗車券拝見】
まだ都会のネオンの中を走っているときに、車掌が乗車券をチェックしにくる。ここでシャワーカード(310円)と、タオル+歯磨きセット(210円)を買わないと車掌を捜して列車中を行き来しなくちゃならないから要注意。
【22:30 シャワータイム】
高2のときに乗ったブルートレイン「北陸」から寝台列車に目覚めたオバだけど、車中でスッ裸になるのは初めての経験。半畳ほどの脱衣所には備え付けの脱衣カゴがあって、意外と使い勝手がいい。
先ほど買ったカードを入れて、体を洗うのはほどほどにして熱いシャワーを6分間、ただ浴び続ける。シャンプー、ボディーソープも用意されているのがうれしい。もしかしたら極楽という場所は、こんな風に揺れているのかもしれないと思いつつ、じっと目を閉じていた。
【22:45 車内お散歩】
サンライズエクスプレスは、東京駅を出発するときは14両だけど、翌日の朝に着く岡山駅で、前7両が高松を目指す「サンライズ瀬戸」と、後ろ7両の「サンライズ出雲」に分かれる。それにしても、車両内を歩いてみると、桟敷席にゴロ寝のような「ノビノビ座席」(寝台料金不要)からラウンジまで、乗客の7割が女性だ。ほかには、のんびり過ごしている初老の夫婦の姿もちらほら。リタイアした夫婦でも、個室もあるしゆったり過ごせそうね。
【23:00 ラウンジで乾杯】
車窓を眺めながら、カウンター式の椅子でくつろぐことができるラウンジへ移動。風呂上がりにお散歩をしたら残る楽しみは、しゅわしゅわしたものをキューッと。
ここで隣り合った20代後半女子ふたりに声をかけて「いっしょに、のものも」。聞けば彼女たちは「ノビノビ座席」の乗客で「すんごく静かで話もできないからここにきたの」だそう。夜の車窓は風景こそ映らないけれど、それぞれの人生の切れ端が、浮かんでは消え、消えては浮かぶ。「ふたりともいろいろあって、どっかに行きたいねぇと。どうせなら縁結びの神様のいる出雲に行こうかってことで」
【24:00 就寝】
従来の寝台列車と明らかに違うのがベッドの質。「サンライズエクスプレスは、さすが住宅メーカーが設計に携わっただけのことはある」と、オバの“鉄師匠”たちの評価も高い。酔いがさめてきたのか、少し寒くなってきた。枕元のエアコンのつまみを回すと、個室内はすぐにポッカポカ。
背骨にまっすぐ伝わるレールの振動が、オバを深い眠りに誘う。半円形の窓には、春の星がまたたいていた。
※女性セブン2012年5月24日号