就活の悩みから自殺する若者が増えている。大学も取り組みを始めているが、効果的なのは周りにいる人間だという。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏は「自殺を止めるために小さな勇気を持て」という。
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5月8日付の読売新聞が報じた「就活の失敗を苦に自殺する10〜20歳代の若者が急増」というニュースがネットでかなり話題になりました。警視庁では07年から自殺原因を分析しています。2011年は150人が就活の悩みから自殺。うち学生は52人でした。07年の60人、08年の91人から大幅に増えています。非常に胸が痛むニュースでした。
自殺の増加に関する報道で気をつけたいのは、これは自殺をして死に至った方のデータであり、自殺未遂をした方などは含まれていないことです。その予備軍にまで目を向けると自体はより深刻です。
若者の労働問題に取り組むNPO法人POSSEが調べたところによると、就活生の7人に1人がうつ状態というデータが明らかになりました。ややサンプル数が少なく、エリアも偏っているデータではありますが、事態の深刻さを物語っています。
実は大学の方では、学生の「就活うつ」などメンタル問題対策に奮闘中です。心に悩みがあった場合に健康センターにいくように促しています。学生を面談するキャリアセンター職員やカウンセラーも、彼らが心身に不調がないか、かなり気をつけています。
都内の中堅私大のキャリアセンター課長はこう語ります。「今年も学生はかなり疲れ始めている。特に、説明会や選考が激しくなる時期、大手に落ちたあたりが心配」。大学でも相当、就活生の体調やメンタルヘルスを気にしています。
とはいえ、課題は、一番フォローするべき学生との接点を持てないことです。「就活に悩みを持って、相談してくれる学生はいい。問題は、一番フォローすべき就活がうまくいっていない学生、友人とも連絡をとらなくなる学生をどうケアするか。これらの学生とはそもそも接点を持ちづらい……」関西の私大職員はこう語ります。
そう、就活が決まらない学生のために大学ではフォローする講座や、面談などを行なっていますし、求人票は届き続けていて紹介も可能なのですが、困っている学生はそこにやってこないのですよね。
内定報告のない学生に電話をかけるなど、フォローをしている大学もあるのですが、心の折れた学生は電話に出ません。接点は持ちづらいのです。そもそも大学の中に居場所を持てないという学生もいます。入学時にうまく馴染めず、友達などとのつながりもなく、居場所に悩む学生たちがいます。
都市伝説として語られがちな「便所飯」をする学生も実際に存在します。都内の大学職員によると「友達ができないのは大学のせいだ!」と殴りこんできた学生がいたとか。いかにも若者のトンデモ話のようですが、相談してくれただけ、まだましのように思えてきます。
九州のある公立大学では、学生が初期段階から居場所を作れるように、1年生のうち多くの学生が履修するキャリア教育科目の中で、必ず毎週、違う学生とグループワークをするようにしているとか。これでつながりが生まれるというわけですね。
「居場所」これは今の若者が悩み続けている問題なのです。
就活うつ、就活自殺をいかに防ぐか。そもそもの就職難をどうするかという問題はもちろんあります。ただ、大きな改革は今すぐ起こるわけではありません。今、目の前で困っている人がどうやったら救われるかという観点を持つべきです。
いま、個人レベルで出来ることは「話しかける勇気」ではないでしょうか。悩んでいたら、話しかけてみる。悩んでいる人がいたら、声をかける。そんな勇気が必要です。大学のスタッフも、家族や友人たちも心の扉を開いて待っています。
もちろん、悩んでいる人に声をかけるのも空気読まない行為と言われそうですが、とはいえ、何もしないよりは少しはましです。亡くなった人は、二度とかえってこないのです。悩んでいることは、人に話すだけで、少しは気が楽になったり、劇的に解決することだってあるのです。
ソーシャルメディア、ソーシャルキャピタルが人を救うという牧歌的な論調もありますが、大事なときには意外に救ってくれません。「いいね」を押してくれた人は、意外に助けてくれません。そもそも、傷ついている人は、ソーシャルメディアで自分の情報を発信したりしません。
「絆」という言葉が話題となりましたが、それは本当にあるでしょうか。困っている人がいたら声をかける、困っていたら思い切って相談する、この小さな勇気を持ちましょう。