日本球界には、来日したものの難癖つけてすぐに退団、契約金だけふんだくっていった外国人選手がいる。日本球界を単なる「小遣い稼ぎ」の対象としてしか見ていないわけだが、はたしてこれは外国人選手だけの問題だろうか。ノンフィクション・ラーターの神田憲行氏が考察する。
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ソフトバンク・ホークスに今季加入したのもつかの間、早くも退団したペニー投手に憤っているファンも多いだろう。怪我なら仕方ないとも思えるが、日本ではまともに登板せず米メジャーと復帰契約も間近とかで、「アメリカに戻れて最高だぜ」と本人がツイッターでコメントするに至っては、人間性を疑わざるを得ない。
「いやでも、ペニーみたいなのはメジャーに復帰してもそんなに活躍できるとは思わないなあ」
というのは、米メジャー選手代理人関係者。かつてはペニーのように来日したものの難癖つけてすぐに退団、契約金だけふんだくっていった外国人選手がいた。日本球界を単なる「小遣い稼ぎ」の対象としてしか見ていないわけだが、
「いま日本に来るメジャー選手の希望は、日本球界でもう一度野球を勉強し直してメジャーに復帰すること。ペニーのように日本をあからさまに下に見る選手はむしろ少ない」
彼らがロールモデルとして目指すのが、広島カープからテキサス・レンジャーズに復帰し、今年は開幕投手も務めたコルビー・ルイスだという。
「日本ハムのケッペルや楽天のラズナーのように、日本球界をリスペクトし、新たに野球を学び直そうとする外国人選手も多い。当たり前の話だけど、野球に対して謙虚で好奇心を失わない選手が結局、復帰しても成功するんですよ」
そんな話をしていて、私が思い出したのは野茂英雄さんだった。野茂さんがデトロイト・タイガース時代に日本のメジャー・ファンとの対談の司会を仰せつかったことがあったのだが、終始温厚な野茂さんが、唯一色をなして反論したときがあった。メジャー・ファンが、
「野茂さんのおかげでメジャー中継が日本で見られるようになり、もう日本のプロ野球なんて見られませんよ」
と言うと、野茂さんはこう言った。
「たしかにメジャーには世界からトップレベルの選手が集まります。でも日本のプロ野球、アマチュア野球にも、それぞれ見るべきところがあるんです」
日本人で初めてメジャーで大きな成績を残し、メジャー移籍選手の象徴ともいえる野茂さんから日本球界を肯定する発言が聞けて、私は驚くとともに感激した。
翻って、日本球界を足蹴にする外国人選手に憤慨する前に、我々自身、日本球界の価値を見損なっていないだろうか、とも考える。そしてそれは野球の話だけだろうか、とも。我々の心の中にも“ペニー”がいる。