買ってきてから3日目、冷蔵庫でクタッとしなびていたほうれん草。50℃の湯につけてみると、丸まっていた葉先がゆっくりと広がっていくのが目に見える。洗うこと2分、湯から上げてキッチンペーパーで水気を切ると一目瞭然、買いたてのシャキッとしたほうれん草に戻っていた──。
「50℃の湯で洗うだけ」で野菜の鮮度が蘇る、そんな魔法のような裏技を発見したのは、蒸気技術工学の専門家でスチーミング調理技術研究会代表の平山一政さん。
「出発点は野菜をいちばんおいしく食べられる方法を探すことでした。蒸すことがいちばんいいと思い、100℃から1℃ずつ温度を下げながらテストを繰り返していました。すると50℃のとき、みるみるうちに野菜の葉が広がり元気になっていく様子を目の当たりにしたんです。それならば50℃の湯で洗ってはどうかと試してみて、“50℃洗い”のミラクルを発見しました」
その驚くべきミラクルの解明ははじまったばかりだが、「野菜は収穫後に気孔(葉の表皮にある小さい穴)を閉じて水分の蒸発を防ごうとし、時間が経つとしおれてしまう。そこで50℃の湯に入れるとそのショック(ヒートショック)で瞬間的に気孔が開き、失われた水分が細胞に吸収され、収穫直後の状態に戻る。レタスなどの葉野菜は、40%もの水分を吸収することもあるんです」(平山さん)
野菜を手早く洗って、冷水につけておくとシャキッとする…そう思っていた人も多いはず。ところが冷水と比べると、50℃の湯につけた方が水分の吸収率が格段にいいという。平山さんは「50℃洗い」のポイントを話す。
「まずは味。そして食感も劇的に変わります。冷蔵しても長持ちし、殺菌効果も高いので病院食としても取り入れられています。アクやえぐみが取れておいしくなるので、野菜嫌いの人にもおすすめですね」(平山さん)
※女性セブン2012年5月24日号