日本では、65才以上を指す高齢者人口が、じきに3000万人に達する勢いにある。そのうちの18%、5人に1人弱は介護が必要だ。
さらに、85才以上に絞れば、約半数がその対象となる。世界でもまれな速度で高齢化が進むなか、「介護」は制度も状況も刻々と動く過渡期にあるのだ。社会全体で支えなければ底が抜ける状況下では、もはや誰もが「介護」とは無縁ではいられなくなった。
その要介護者が誰の手で支えられているのか、注視しておきたい数字がある。厚生労働省が「主な介護の担い手」を調査したところ、8年前の2004年には「配偶者」(24.7%)に次いで多かった「子の配偶者」(20.3%)の位置に、2010年には代わって「子」(20.9%)が急浮上してきた。
これを「顕著な変化」ととらえるのは、「高齢社会をよくする女性の会」理事長で評論家の樋口恵子さん(80才)だ。
「『子の配偶者』とは主に『嫁』のことです。『子』は主に『娘』のこと。つまり、介護の担い手が『嫁』から『娘』へとシフトしているのです」(樋口さん)
大家族が消滅し、家長である父が絶対的なリーダーとして家庭内を取り仕切った「家」制度が崩れたいま、嫁が「嫁ぎ先のことにだけ専念できた」のはもはや過去のことだ。
現在、親の介護に直面するのは40~50代の「2人きょうだい」世代で、タイミングによっては、夫婦ふたりで、同時に親4人の介護を担う可能性も充分にありうる。介護者の数が圧倒的に足りないのだ。
いざ介護の必要が生じれば、家単位ではとても機能しないから、外に嫁いでいても実家の親を介護しに戻らなくてはならない娘、親と独立した家庭を築いていてもやはり実家の面倒を見なければならない息子など、介護の現状は「それぞれの親をそれぞれが看るという、血縁化がひとつの特徴」(樋口さん)となるわけだ。
もうひとつ、樋口さんが挙げた重要な要素が、心情的な傾向だ。
「蓄えがあり、年金もあるいまの親たちは、老後を長男に頼らなくてもよくなりました。結果、世話してもらうなら“やっぱり娘がいい”という意識の変化がでてきた。親にとっては、こちらのほうが、居心地がいい。同様に娘のほうでも、夫の両親を看るよりは、自分の親を看たいと考えるようになった。『嫁』と『姑』との義務ばかりの関係でなく、そこには少なくとも親子の情愛があります」
一連の事情は、若い女性たちが出産に際し「昔は跡継ぎの男児を望んだが、いまは娘を欲しがるようになった」傾向とも、地続きなのだという。
「嫁から娘へ」「長男よりその下の妹」の事態を、樋口さんは、「介護の繰り上げ当選」と呼ぶ。
※女性セブン2012年5月24日号