国会ではいよいよ消費税増税法案が審議入りした。 大メディアは早速、「与野党は大胆に歩み寄り、早期の成立を目指すべきだ」(読売新聞5月9日付社説)と増税礼賛一色になり、国民は生活破壊への不安を募らせている。
こういうときが最も危ない。国民の視線が一つの問題に釘付けにされている間に、別のとんでもない謀略をめぐらすのは霞が関のよくやる手だ。案の定、野田政権は大増税の陰でひそかに国民の老後資金を収奪する仕掛けを打っていた。
大型連休直前の4月24日、蓮舫・元行政刷新相を座長とする民主党の「年金積立金運用のあり方及びAIJ問題等検証ワーキングチーム」が重大な報告書をまとめた。『AIJ問題再発防止のための中間報告』という表題で、一見、運用を受託していた企業年金2000億円の大半を消失させたAIJ投資顧問事件の被害者救済策のようだが、内容は正反対のものだった。
中間報告はこう結論づけている。
〈厚生年金基金制度は、一定の経過期間終了後、廃止する〉
被害者救済どころか、逆に企業年金のほうを潰してしまえというのだ。この一文がどれだけ重大な問題を孕んでいるのかきちんと報じたメディアは皆無だった。
企業年金には、大別すると「厚生年金基金」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金(401k)」の3種類の制度があり、2011年3月末時点の加入者総数は約1545万人で、厚生年金に加入する民間サラリーマンのざっと4割が企業年金に加入している計算だ。401kを除く資産残高は約73兆円にのぼる。
そのうち大企業から中小企業まで約450万人のサラリーマンが加入するのが厚生年金基金であり、AIJ事件で最も被害が多かったのがこのタイプの企業年金だった。民主党のワーキングチーム(WT)は被害者を救済するどころか、事件の被害を受けていない厚生年金基金を含めて制度そのものの廃止を打ち出したのである。
企業年金は国民年金や厚生年金のような政府が運営する公的年金ではない。労使協定に基づいて社員が年金の形で受け取る「退職金の一部」である。日本経団連の調査では加盟企業などの75%が退職一時金と退職年金(企業年金)を併用している。
退職金だから掛け金は当然、事業主が拠出する。また、退職金は企業が社員に“サービス”で渡すものではなく、法律上は「労働の対価」と見なされるのが普通だ。つまりサラリーマンの権利なのである。
民主党の方針は、国家権力が労働者の権利を奪うことを意味する。
※週刊ポスト2012年5月25日号