GW中に関越道で起きた貸切ツアーバス事故の死者7名は、全員が車体左側(助手席側)に座っていた乗客で、14名の重傷者もほとんどが左側だった。一方、右側(運転席側)にいた人は、居眠り運転をしていた運転手がほぼ無傷で済んだのをはじめ(事故2日後に自動車運転過失致死傷容疑で逮捕)、軽傷者が多い。
自動車整備士などの育成を行なう中日本自動車短大の大脇澄男・教授(自動車工学、交通心理学)が語る。
「過去に起きたバス事故の多くは、車体の左側を破損・損壊させています。今回のような居眠り事故は論外ですが、運転手は本能的に自らの安全を守ろうとするために助手席側を衝突させるからです」
その傾向は、国交省が調査した過去5年間のバス重大事故からもはっきりわかる。事故の種類には衝突、横転、追突、転落、火災などがあるが、大脇教授の指摘通り「破損が激しいのは左側」というケースが大半だ。
では、前方と後方ではどちらが安全なのか。
追突すれば前方が、追突されれば後方が破損するように、事故の種類によって被害を受ける箇所は違うが、本誌は新聞報道などをもとに、過去20年に起きた合計35件の事故を検証。そのうち乗客が死亡した事故(13件)における座席を、「前方左側」「前方右側」「中央左側」「中央右側」「後方」の5か所で分類した。
数字の大きい順に並べると、前方左側=38%、後方=17%、前方右側および中央左側=8%、中央右側=4%となった。ちなみに運転席が13%。バス左側は57%、右側14%となった。
やはりというべきか、死亡者が最も多かったのは約4割を占める「前方左側」。特に最前列は事故の衝撃が大きいため、“最も危険な座席”とされる。2007年に大阪で起きた貸切スキーバスの衝突事故(居眠り運転でモノレールの橋脚に衝突)では、前方が大破して助手席にいた添乗員が死亡した。
追突された事故にもかかわらず、前方の乗客・乗員が犠牲になったケースもある。1995年に神奈川県内の東名高速で起きた追突事故ではバスの右後部にトラックが衝突。その衝撃でバスは道路左側の壁などに衝突して屋根が剥ぎ取られ、助手席にいたバスガイドと左最前列窓側と2列目にいた乗客が車外に転落して死亡。追突箇所に最も近い後方座席の乗客は軽傷だった。
「最前列座席は投げ出された体を止める構造物がないため、フロントガラスを突き破って投げ出される危険がある。中央通路の補助席も同じで、追突や急ブレーキの時には中央通路部分を何メートルも吹っ飛ばされることがある」(大脇教授)
ただし、運転席はハンドルや計器類などが“遮蔽物”になる。運転席と助手席の死亡率に約3倍の違いがあるのはそうした理由もあるようだ。
※週刊ポスト2012年5月25日号