日本は「食料自給率」を重視し、政策目標にまで掲げている。だが、世界を見渡すと、こんな国は日本だけだという。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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食糧自給率にはカロリー(熱量)ベースと生産額ベースの数字がある。よく話題になるのはカロリーベースの方だ。分母は国民1人1日当たりの供給カロリー、分子はそのうち国産で賄われたカロリーである。
日本の食料自給率(カロリーベース)は年々低下を続け、2010年度は39%に落ちた。農水省は「食料を自給できなくなっては大変だ」と大宣伝し、野田佳彦政権は20年度までに50%に引き上げる目標を掲げている。
結論から言えば、コメを作る農業は大切だが、そのために食料自給率向上という目標を掲げるのはデタラメである。
なぜかといえば、そもそも根本的な前提として日本はエネルギーを自給できない。コメを自給できたとしても、炊くエネルギーがなければ食料の安全保障は確保できない。農水省はエネルギーに関係ないから、自分の役所の都合で言っているだけだ。
次に自給率の向上だけが目標なら、食料輸入をゼロにすればいい。分母は国産、分子も国産になって自給率100%達成である。それに近い国が実際にある。北朝鮮だ。日本は北朝鮮を目指すのか。ばかげている。
もう少しましな議論としては、食べ残しや賞味期限切れで捨てる部分も分母に含まれているという事情もある。つまり、実際には食べようと思えば食べられるのに食べていない。にもかかわらず、計算上は分母に入っているから、比率は小さくなってしまう。
捨ててしまう分を除いて計算すると、自給率は50%を超えるという推計がある。つまり、実際にはそれほど心配いらないという話だ。分子の国産分は肥料も国産でないと計算に加えないという技術的問題もある。
食料自給率という数字は以上のように問題点が多いから、世界を見ると、どの国も政策目標に掲げていない。農水省のサイトを見ると、各国の自給率が出ているが、それらはみな農水省による試算である。そんな数字を発表している国がないからだ。
※週刊ポスト2012年5月25日号