タバコ1本で懲戒免職。この橋下徹市長による“厳罰”が、話題を呼んでいる。大阪市営地下鉄の駅長室で喫煙し、火災報知器を鳴らして列車を遅らせたとして、駅助役を免職にする考えを示したものだ。さすがにタバコ1本での免職は例がないが、「相当、緊張感がない。裁判闘争も辞さず」とする橋下氏。役人との対決姿勢を明確にしている氏が首相になったら、国家公務員56万人の運命やいかに?
かつて勤務先の特殊法人の公金浪費などの実態を内部告発し、その経験から公務員や天下り法人の問題を追及し続けているジャーナリストの若林亜紀氏が分析した。
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大阪市の改革では、「平均年収739万円」の大阪市営バス運転手の給与を、府内の民間バス会社と比較して、38%もの削減を打ち出しました。
公務員たちは、こんな橋下氏の中央進出への意欲を、戦々恐々として見ています。加えて私が彼に期待したいのは、国の出先機関の大胆なリストラです。
橋下氏は大阪でも府政と市政の二重行政の廃止を掲げています。これを国においても断固としてやるべきです。
全国には、各省庁の出先機関が多数存在します。出先機関は、国土交通省の「地方整備局」やその傘下の「国道事務所」「港湾事務所」など、下部機関も含めると1000か所以上も存在し、20万人以上の国家公務員が派遣されていますが、都道府県行政と重複していたり、閑職に甘んじていたりする組織が少なくありません。
たとえば、農林水産省には地方農政局や地域センターなどという出先機関がありますが、私が取材した、ある地域センターは印象的でした。
私が2階の部長室に行って挨拶しようとすると、ちょうど部長が部屋を出ようとするところで、そのまま出て行ってしまいました。すると、ふと見えた部長のデスクのパソコン画面に映っていたのは、麻雀ゲーム。取材したのは10月でしたが、掲げられた予定表には、忘年会の予定ばかりで、仕事のことは書かれていませんでした。
階下で仕事内容について聞くと、毎年郵送アンケートで統計を取って、3年に一度、30ページほどの冊子にまとめるのが主な仕事だと言う。最新のデータが欲しいと言うと、「都道府県でも同じような統計がありますし、そっちのほうがわかりやすいですよ」という有り様でした。これこそ、二重行政の最たるものです。
地域センターは、事故米不正転売事件(2008年)を受けて、昨年9月にそれまでの農政事務所が再編されて名前を変えたものですが、まだ全国に100か所以上の拠点があります。
二重行政を解消するには、道州制の本格的な導入や地方自治体の協力などいくつものハードルがありますが、橋下氏にはそれをぜひ飛び越えてもらいたいと、期待します。
※SAPIO2012年5月9・16日号