「企業年金」は企業と社員が交わした契約であり、法律で守られている。一部の企業では、脱法スレスレのごまかしでそれを減額したり廃止したりする横暴がまかり通っているが、あろうことか、労働者の権利を重視する立場だったはずの民主党の一部の議員らは、大企業に尻尾を振って、企業年金廃止に手を貸そうとしている。
大型連休直前の4月24日、蓮舫・元行政刷新相を座長とする民主党の「年金積立金運用のあり方及びAIJ問題等検証ワーキングチーム」が重大な報告書をまとめた。『AIJ問題再発防止のための中間報告』という表題で、一見、運用を受託していた企業年金2000億円の大半を消失させたAIJ投資顧問事件の被害者救済策のようだが、内容は正反対のものだった。
中間報告はこう結論づけている。
〈厚生年金基金制度は、一定の経過期間終了後、廃止する〉
被害者救済どころか、逆に企業年金のほうを潰してしまえというのだ。厚生年金基金が廃止されるとどうなるか。
企業年金には、大別すると「厚生年金基金」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金(401k)」の3種類の制度があり、2011年3月末時点の加入者総数は約1545万人だが、中間報告には具体的な方法として、〈厚生年金基金には、【1】解散させるか、【2】代行資金を返済した上で確定拠出型年金ないし確定給付型年金に移行するかを選択させるべきである〉―として、解散要件の大幅緩和まで盛り込んでいる。
厚生年金基金の解散は、2006年に政府の産業再生機構によって解体されたカネボウ・グループのケースがよく知られている。同社の基金には子会社を含む約1万4000人の現役社員と約2万2000人の退職者(受給権者)が加入していたが、基金の資産残高約910億円を社員と退職者に分配して解散し、企業年金は打ち切られた。社員が受け取ったのは本来もらえるはずの金額の4割程度だった。
それでも積立金が残っていたカネボウ社員はまだ恵まれている。厚生年金基金は複数の企業が共同で設立した総合型など全国に578あるが、4割の212基金は積立金がゼロだ。本来なら不足分を企業が拠出しなければならないが、解散すれば企業は年金債務から逃れることができ、一方で社員やOBは受け取る企業年金が最悪、ゼロになる。
厚生年金基金から別の企業年金制度への移行の場合も退職金減額に直結する。
公的年金や企業年金制度に精通する「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「厚生年金基金の場合、企業が社員の給料の何%分かに相当する金額を拠出し、基本はそれを5.5%の予定利率で運用した金額を退職後に企業年金として支払うことを就業規則で約束している。現在の市場環境ではそんな運用利回りは無理だが、これは労働者との契約だから、不足分は企業が追加拠出することになっている。
運用成績が悪いから企業年金を減らすというのは労働条件の『不利益変更』にあたり、加入者の3分の2以上の同意が必要で、企業が潰れるとか、よほどの事情がない限り認められません。
ところが、企業側は退職金拠出を減らすために厚生年金基金から他の企業年金制度に変更し、そのドサクサに制度や法律に詳しくない社員を丸め込んで同意させ、予定利率を1.5~2%程度まで引き下げるケースが多い。民主党報告書の厚生年金基金制度の廃止は、企業年金カットの格好の口実にされるでしょう」
予定利率が下がれば退職金がいくら違うかを試算すると、例えば、退職金2000万円のサラリーマンが1000万円を退職一時金、残る半額を年金方式(60歳から25年間)で受け取る場合、予定利率5.5%なら月額約6万1959円だ。それが予定利率を2%に引き下げると、企業年金は月額4万2684円と3割カットになる。総額500万円以上カットされるのである。
※週刊ポスト2012年5月25日号