衝撃的ではあるが、静かな感動を呼び起こす発表だった。4月26日、宮内庁の定例記者会見で羽毛田信吾長官は、土葬が慣例となっている天皇・皇后両陛下の埋葬方法を、火葬に変更する方向で検討すると発表した。今回の発表について、漫画家・小林よしのり氏が自身の考えることを以下のように寄稿した。
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埋葬方法の変更は、長年にわたって両陛下が側近らに意見を示されていたことだという。 天皇陛下は、今では火葬が社会で一般化していることから、火葬が望ましいとお考えになっている。
また両陛下はかねて、東京都八王子市の武蔵陵墓地にある昭和天皇陵と香淳皇后陵が少し離れ、平行に隣接していないのを見て「用地に余裕がなくなっているのではないか」と思われ、自らの陵について「規模を含めできるだけ簡素なものが望ましい」ともおっしゃったという。
皇后陛下は、天皇陛下の御陵のおそばに、祠のようなものでもと申し出られ、天皇陛下がそれなら合葬ではどうかとおっしゃったそうだがご遠慮なさっている。
さらに葬儀全体についても「極力、国民生活への影響の少ないものとするように」との意向を示されているという。
言うまでもなく、現在の国の財政事情を鑑み、国費負担の軽減を配慮なさってのことだろう。宮内庁はこれから1年程度かけ、具体的な検討を進めるという。
両陛下の、この無私・無欲の慎ましやかなお考えには、胸を打たれる。
そもそも天皇のご葬儀は第41代・持統天皇(702年)から、わずかな例外を除いて火葬が長く定着していた。
それが土葬に代わったのは第110代・後光明天皇(1654年)からである。宮中に出入りしていた魚屋八兵衛が、ご遺体であっても玉体に火をかけるのは畏れ多いと熱心に献言し、それが通じて古代以来の慣行が変更されたと伝えられる。
保守派のメディアでは「お二人の思いを尊重すべきだが、行き過ぎた簡素化には反対だ」と唱え、「この国の象徴としての威厳を保ち、伝統を守る方が大切だ」と主張する向きもある。
もちろん、陛下のご葬儀にはそれなりの威厳は保たれるだろうが、もはや国民の側から「べき論」で主張することすら恥ずかしいという感覚が、わしにはある。
もう何もかも陛下のご意向のままでいいではないか。
※SAPIO2012年6月6日号