『メルマガNEWSポストセブン』では、ビートたけし、櫻井よしこ、森永卓郎、勝谷誠彦、吉田豪、山田美保子など、様々な分野の論客が『今週のオピニオン』と題して、毎号書き下ろしの時事批評を寄稿する。5月18日に配信された最新号15号では、櫻井よしこ氏が登場。少数民族問題に関して日本政府に干渉を続ける中国に対して物申す。
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中国がなりふり構わず、わが国に圧力をかけている。この辺で日本に中国のこわさを思い知らせておかなければならないと決意したかのようでさえある。
きっかけは中国の抱える民族問題である。3月末から4月5日まで、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相が日本に滞在し、安倍晋三元首相以下、91名(代理出席も含む)もの国会議員らと意見交換した。また5月14日には世界ウイグル会議が国会近くの憲政記念館で開催され、ラビア・ カーディル議長が中国政府の弾圧について語り、堂々たるスピーチを行なった。18日には同会議によるシンポジウムが開かれる。世界ウイグル会議にも自民党の古屋圭司氏はじめ多くの国会議員が参加した。
中国政府はこうした動きに強い不快感を示してきた。センゲ首相来日の折りには、「日本が(センゲ首相の)訪問を放任していることに強烈な不満を表明する」との談話を発表した。カーディル議長の入国を許可したことについても同様の強烈な不満を表明した。
センゲ首相の来日および日本の国会議員らとの会合を阻止できなかった中国政府は、世界ウイグル会議の東京開催に先立って「日本政府がこれを認めれば、それは中国の安定と安全、利益を損なうだけでなく、日本自身の安全にも害がある」という、脅しととれる警告の手紙を多くの国会議員に届けていた。
私の手元にも、そのとんでもない手紙の写しがある。送り主は中華人民共和国大使の程永華氏で、日付は5月8日である。大使は日本国内でのチベット人やウイグル人の活動は「中日関係の妨げ」だと断じているのだが、それにしても程大使の手紙には偽りが目立つ。
たとえばチベットでは、「現代教育が広く普及し」、「チベット族の伝統的風俗習慣が保護され、発展し、チベット語が広く学習、使用され」たと自画自賛する。「信仰の自由が十分尊重され、チベット仏教の活動の場が1780カ所余り」もあるとして、「偏見のない人ならだれでも、チベットが歴史上最良の発展期にあることを見て取ることができる」というのである。
ウイグルに関しても、中国政府は「民族の風俗習慣を十分尊重し」「各少数民族文化と宗教文化を保護している」と主張する。「各民族とも中華民族の大家庭の平等な一員である」「各民族人民は憲法と法律で保障された諸権利を享受している」として、中国政府の異民族政策を評価し、正当化する。
そのうえで程大使は、ダライ・ラマ法王を「ダライ」と呼び捨てにし、「宗教を隠れ蓑にして、長年、中国の分裂を企み、チベット社会の安定と民族の団結を破壊しようとする政治亡命者であり、『チベット独立』を企む政治グループの総頭目」と激しく非難する。世界ウイグル会議代表のラビア・ カーディル氏を「犯罪人」として断罪し、同会議事務総長のドルクン氏に至っては「多くの刑事事件とテロ犯罪にかかわ」り、「国際刑事警察機構 (ICPO)に指名手配」されていると偽り、「世界ウイグル会議」はテロ組織の統合体だと、根拠も示さず中傷する。
一国の大使がこんな出鱈目の偽りばかり、文書にして配布してよいのか、中国のイメージはますます悪化するではないかと、他人事ながら考えてしまう。程大使の偽りはそれこそ、「偏見のない人ならだれでも」すぐに見抜くことができるだろう。中国共産党の統治下でチベットが史上最良の時期にあるのなら、なぜ、いまも、若いチベットの僧侶らは焼身自殺を続けるのか。程大使よ、答えてほしい。