大手コンビニで期間限定で登場した北海道の鳥からあげ「ザンギ」が、発売初日の「からあげクン」販売実績で、過去26年間でトップになつた。醤油ベースにニンニクがっつり入れの独特の味わいが人気の理由だが、意外にも発祥地と言われる釧路のザンギとは似ても似つかぬものだった。食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏がレポートする。
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大手コンビニ、ローソンの定番のホットスナック「からあげクン」に期間限定で「北海道ザンギ(醤油味)」が登場した。発売初日の販売実績が、「からあげクン」26年の歴史で歴代No.1になったという。
先日釧路に出張する機会があった。釧路と言えば北海道における「ザンギ」(鳥のからあげ)の発祥地とも言われる。ところが釧路で食べたそのザンギに驚いた。それまで僕が思い込んでいた、ザンギとは違う味つけだった。
一般に北海道での「ザンギ」と言えば、しょうゆベースの甘めのタレにニンニクやショウガのすり下ろしを加え、「しょうゆダレ」を作る。そのタレに鶏肉をしっかり漬け込んだ後に片栗粉や、場合によっては卵を加えた衣をつけて揚げたものというイメージだった。
実際、北海道出身の知人、数人に聞いたところ、多少の違いこそあれ、ザンギには「しょうゆベースのタレ」に「ニンニクをがっつり入れ」、「漬け込む」という共通項があった。「からあげは?」と聞くと「ちょっと違う。もう少し味が穏やか」とか「からあげは衣に味つけ、ザンギは肉にしっかり下味がついている」など、ザンギとからあげは違うものと認識していた。だが、明確な線は引かれていない。
なのに「発祥地」「本場」と言われる釧路で口にしたザンギは違っていた。釧路ザンギの「発祥店」として知られる、昭和35年創業の『鳥松』、ほか初代『鳥松』店主の一番弟子でその後独立したという『鳥善』、昨年夏にオープンした新規参入組の『大ちゃん本舗』、釧路にある3軒のザンギ専門店がことごとく、前出の条件を満たしていないのだ。
「釧路のザンギ専門店は、いずれも塩で下味をつけ、でんぷん(片栗粉)をはたく。ラードで揚げ、店独自のソースをつけて食べるというスタイル」(『からあげ文化論考』~みんなのからあげ文化研究所)
釧路でも、専門店以外の食堂や居酒屋などでは、しょうゆ味をベースにしたザンギを供する店も多い。家庭でも、一般的には「醤油味」一方、昭和20年代に開業し、いまも塩味ベースのザンギをメニューに載せる店もあった。およそ60年間、厨房に立ち続ける『みなと食堂』の店主に話を聞いた。
「えっ!? うちが元祖かって? あっはっはっは! 違うよ。うちの店では最初から、ザンギを出していたわけじゃないんだ。昭和30年代中頃かな。『鳥松』ができて、よく子どもたちを食べに連れて行ってたの。あそこのザンギがおいしくてね。『こういうの、出したいな』と思って通い詰めた。だからうちの味の土台は『鳥松』なんだよ」
確かに『みなと食堂』のザンギも、味のベースは塩。おろしショウガを揉み込み、衣には「でんぷん」が使われている。北海道で「醤油味」『鳥松』の当代や『鳥善』はじめ、釧路の専門店と似た味わいがある。
一般的には「醤油味」が多いとされる「ザンギ」だが、釧路の味は「塩」である。すべての国民食には、地域の数だけ、家庭の数だけ、味わいがある。味噌汁、おにぎり、カレー、ラーメン……。北海道においての「ザンギ」はもとより、全国的にその多様性が認知されつつある「からあげ」もいま、本当の「国民食」になりつつあると言えるのかもしれない。