スーパードライ初の派生商品として、『ドライブラック』を発売したアサヒビール。CMにダルビッシュ有を起用し、狙うゾーンはズバリ、20代~30代の男性だという。新しい黒ビールが、ダルのようなスタートダッシュを切れるかどうか、大注目だ。作家の山下柚実氏が報告する。
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「若者の○○離れ」。どきっとするフレーズだ。特に企業の商品開発やマーケティングの担当者の胸に突き刺さるコトバ。
「車」も「活字」も「お酒」も、みんなこのフレーズで語られてきた。若者たちはなぜ、遠くへ去ってしまったの? どうしたら戻ってきてくれるの?
嘆き節も聞こえる。でも、それは本当なのだろうか。もしかしたら若者たちは「離れた」のではなくて、意外と「近い」ところにいるのではないか。
「ハイボール」がヒットした時、そんな思いがよぎった。ウイスキーを炭酸で割るという飲み方を提案すると、「新鮮!」とばかりに飛びついた若者たち。ハイボールは今も昔も変わりはない。だとすれば、若者が「お酒から離れた」わけじゃないのかも。
ではビールは? 7年連続で出荷量過去最低(1992年以降)を更新中というビール系飲料。その中で、年間1億ケース以上を売り上げる『スーパードライ』を有するアサヒビールも、「若者のビール離れ」にただ手をこまねいているわけではなかった。
4月3日、スーパードライ初の派生商品として、『ドライブラック』を新発売。CMにダルビッシュ有を起用し、狙うゾーンはズバリ、20代~30代の男性だ。新しい黒ビールが、ダルのようなスタートダッシュを切れるかどうか、大注目だ。
発売から1週間ほどたった頃、同社を訪ねて直球をぶつけてみた。ドライブラックの売れ行きはいかがでしょう?
「ありがたいことにお花見のタイミングにピタリと間に合いました。事前の予約受注は予想の2倍を超え、4月末までで、年間販売目標の半分以上となる115万ケースを売り上げました。スーパーやコンビニでも目立つ場所に置いていただいています」
と同社マーケティング本部担当副部長・杉浦克典氏(41)は言う。まずは上々の滑り出し、ということらしい。
「我々の意気込みは、従来の黒ビールの延長線上を行くというよりも、『新しいカテゴリーを創り出そう』ということなんです」と鼻息が荒い。
聞けば、黒ビールの市場規模は年間約100万ケース、これは全体の0.2%に過ぎないとか。ドライブラックはそれと同じ数量を1か月で達成した格好だが、「年末までにその2倍、200万ケースを目指します。新しい飲み方、楽しみ方を提案できるかがポイントです」
出荷の減少傾向が続く厳しいビール業界だが、スーパードライは堅調な動きを続け、さらに近年「良い兆候」も表われている。キーワードは「氷点下」。
暑さの中で、マイナス2℃~0℃にまで冷やしたスーパードライを飲む、新スタイル「エクストラコールド」を提案したところ、昨年は特設BAR4店舗に13万人もの人が来店し、全国の飲食店での取扱店も1656店まで拡大したのだ。店には行列ができた。女性を含めて若い世代が目立つ。
「ビールは冷たいほうがうまいし、キレ味も鮮明になる。氷点下という新しい飲み方を提案したら若い人たちが行列してくれた。きちんと提案できれば応えていただける。まだまだやれることはある、と反省したんです」(杉浦氏)
では、「黒ビールの新しい楽しみ方」の提案とは何なのか?
「一般的な黒ビールの味は、コクがあり濃くて苦みも強い。普通のビールは日本人の舌に合わせてどんどん変化してきましたが、黒ビールは変化していない。黒ビールも日本の消費者の味覚に合うように製造すればもっと日常的に楽しんでいただけるのではないかと考えました」
黒ビールは、イギリスでビール市場の30近く、アメリカでも約5~6%を占めている人気ぶり。しかし日本では、ごくわずかしか飲まれていない。それは「日本人の嗜好」にフィットする形で変化していないからではないか。そう考えた同社は、黒ビールの開発に着手した。コンセプトは「辛口、ブラック」。
「スーパードライと同じ酵母を使い、キレ味のあるまったく新しい黒ビールに仕上げました」
※SAPIO2012年6月6日号