5月13日、宮城県仙台市若林区にある荒井小学校用地応急仮設住宅を訪問された天皇皇后両陛下。この日、両陛下のその温かなお心にふれた住民たちには、こぼれるような笑顔が広がった。
昨年の夏、この仮設住宅に夫とともに移り住んだ佐藤きのよさん(89才)は、津波に流されたときに脚を打撲し、足腰が不自由になってしまったため、仮設住宅で暮らし始めて以来、一歩も屋外に出たことがなかった。そんな中、両陛下がご訪問になるということで、ヘルパーにこう声をかけられた。
「天皇陛下と美智子さまがいらっしゃるから、外へ出てみませんか?」
いざ車いすに乗って、家の前で両陛下をお迎えした佐藤さんは、陛下を前にすると、震災直後の苦しい胸の内を語り始めた。
「私は津波で家が流されてしまって、もう跡形も残っておりません。もう残ったのは、この命だけです…」
すると陛下は“うんうん”とうなずかれながら、佐藤さんの手をギュッと握られた。その陛下の思いやりに心が穏やかになったのか、佐藤さんは、美智子さまとの会話では笑顔を見せる場面もあったという。
佐藤さん:「いまはここに住まわせていただいて、本当に感謝しております。津波で家が流されてしまって、どうしようかと思っていましたが、いまはとても幸せです」
美智子さま:「そうでしたか。大変でしたね。冬は寒くなかったですか?」
佐藤さん:「はい、大丈夫でした。みんながとてもよくしてくれました」
美智子さま:「それはよかった。これからもどうぞお元気で、お過ごしくださいね」
そして美智子さまも陛下同様に佐藤さんの手を優しく握られると、彼女は笑顔を浮かべながら「ありがとうございます」と心からの感謝の意をお伝えした。このときの気持ちを佐藤さんはこう振り返る。
「私は両陛下とお会いするのは初めてで、すごく緊張しましたけど、おふたりと話せて本当に記念になりました。両陛下が来てくださったお陰で、“一歩”踏み出すこともできました。
それと両陛下と話ができたからか、その夜は幸せな気持ちで、ぐっすり眠ることができましたよ。もし次お会いする機会があれば、覚えていてくださったらいいんですけど(笑い)。とにかくあの世にいっても、みんなに自慢できますよ、あっはっは!」
こんな冗談までいえるようになった佐藤さん。両陛下と会うまでは塞ぎ込んでいた人とはとても思えぬほど、すっかり元気になっていた。
※女性セブン2012年5月31日号