いよいよ国会で消費税法案の審議が始まった。野田政権としては谷垣禎一・総裁率いる自民党と組んで「増税党」を作り法案成立を目指しているものの、民主党内からも異論が続出し、いまや八方ふさがりの状態だ。
「増税党」の伴侶となる自民党は、本当に包囲されつつある野田本陣に援軍として駆け付けるのだろうか。NOである。
谷垣総裁は「自民党の考え方と首相の考え方は基本的に同じ方向を向いている」(4月16日の講演)とラブコールを送り、審議拒否だといって“対決姿勢”を演出していたはずの「社会保障と税の一体改革特別委員会」の野党筆頭理事に伊吹文明・元幹事長、党の税調会長に野田毅氏という大蔵省OBの増税派を抜擢して、「増税賛成サイン」をビシバシ出している。
翼賛メディアが報じるのは、この“華々しい援軍の将軍たち”だけだが、現場の兵士たちの士気は全く上がっていない。
「ゴールデンウィーク明けに各委員会の筆頭理事と参院の国対が集まって増税法案への対応を協議した。もし衆院で可決されたら参院はどう対処するかという議題だったが、結果は『衆院で採決できないだろう』ということで終わった。笑い話のようだが、民主、自民の党内勢力をきちんと色分けして出した結論だ」
自民党国対幹部はそう苦笑する。要するに、谷垣執行部を除いた自民党幹部は、消費増税が実現するとは全く思っていないのである。
いや、執行部以外に増税派がいないわけでもない。森喜朗・元首相は講演で、「谷垣さんは、消費増税に賛成してしっかり副総理に入ればいい」とエールを送り、消費税と引き換えに大連立したいという邪心を隠しもしない。前述の伊吹、野田両氏を含め、自民党長老のなかにも増税賛成派が多少はいる。
「あの人たちの頭にあるのは、第一に『解散しないで政権復帰したい』ということ。次の選挙が怪しい旧世代の考えそうなことだ。第二に、かつて党税調が税制を牛耳って各種業界団体に睨みを利かせていた“古き良き時代”が消費増税でまたやってくるという勘違い。軽減税率をどの品目に認めてやるかを差配して利権にしようという狙いなのだろう」(自民党中堅議員)
一方、多くの自民党議員は増税に反対だ。本誌取材に増税反対を明言した(4月13日号)菅義偉・元総務相、中川秀直・元官房長官ら実力者が谷垣執行部に従う可能性は低く、安倍晋三・元首相も菅氏らと同調して反増税の立場だ。
野田政権は、自民党が近く出す修正案を丸呑みすれば手が組めると思っているようだが、その修正案こそが自民党からの「最後通牒」になる可能性がある。
「修正案には、民主党が絶対に呑めない『毒』を入れることになる。総合こども園計画の撤回、最低保障年金の撤回、後期高齢者医療制度の廃止の撤回などが候補になる。無理難題を突き付ければ民主党内がまとまらないから採決に至らないだろう」(自民党政調幹部)
※週刊ポスト2012年6月1日号