金正恩体制がスタートして以降、真の権力者が誰なのか把握するのはなかなか難しい。真の序列をどう見抜くか、ジャーナリストの惠谷治氏が解説する。
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北朝鮮権力内部の真の実力者を探り出すためには、【1】労働新聞などの公表序列、【2】所属組織での地位、【3】党・軍・政の兼職状況、(「政」は「政府=閣僚」ないし、「国家機関=国防委員会」の役職を指す)【4】金正恩の視察などでの同行・同席回数、【5】叙勲や昇進状況、【6】金正恩との個人的関係や年齢など、6つの要素を考慮する必要がある。
これを基準に判断すると、崔竜海が金正恩に次いで兼職が多く、最も注目すべき存在だとわかる。
“祝砲”となるはずだったミサイル発射は見事に失敗したが、幹部人事には影響しなかったようだ。北朝鮮の核・ミサイルなど兵器開発の総責任者は、党軍需工業担当書記である。2010年9月、軍需工場が多い慈江道の党責任書記だった朴道春(68歳)が就任。朴道春も軍人ではないのに、2月に大将の階級を与えられ、党政治局員候補から党政治局員に昇格し、5人しかいない党書記兼職者となり、序列17位から9位に浮上した。
配下の党機械工業部の朱奎昌部長(83歳)と、核・ミサイル製造を担当する第2経済委員会の白世鳳委員長(66歳)の2人は、朴道春が大将になった際に、上将の階級を与えられた。朴道春、朱奎昌、白世鳳の3人は「核・ミサイル開発トリオ」とされ、金正恩に厚遇されている。
また、国葬委員会序列59位だった玄哲海大将(77歳)は、4月に次帥に昇進し、党政治局員候補を経ず、いきなり党政治局員に抜擢された。そして、党中央軍事委員にも新任され、序列17位に急浮上した。
人民軍総政治局組織副局長だった金元弘大将(66歳)は、金正日が兼任していた国家安全保衛部(秘密警察)部長という重職に任じられ、序列58位から18位に急上昇。さらに、昨年4月から人民保安部長(内務相)を務める李明秀大将(78歳)も、党政治局員、党中央軍事委員、国防委員の3職に新任され、序列は74位から一気に19位に駆け上った。
この3人は金正日時代から軍部隊視察の常連同行者で、金正恩の視察にも頻繁に同行。今回の激動人事を見ると、治安組織を重視し、強力な警察国家にしようとしている意図が読み取れる。
※SAPIO2012年6月6日号