福岡・中洲一の高級クラブ『ロイヤルボックス』のオーナーママ・藤堂和子さん(66才)は“接客の天才”だ。温かい心遣いを糧とした一流のもてなしこそが、政財界をはじめ各界の著名人を惹きつけ、彼女を“女帝”と呼ばしめる素地となった。母娘3代のママ稼業。しかし、3代目とはいえ、藤堂さんは祖母や母から譲られた店を順当に継いだわけではない。
藤堂さんが、経営難に陥っていたクラブ『ロイヤルボックス』の立て直しという大仕事を実兄から任されたのは1994年夏のことだった。
「兄が引き継いだ1970年代半ばは繁盛していたんですが、バブルがはじけたころから苦しくなって約5億円の借金を抱えていたんです」(藤堂さん)
ホステス、ボーイ合わせて約70人での再出発。だが、180坪もある大きな店は、1日最低200万円を売り上げなければ立ち行かないというのに、毎日、目標額にはほど遠い。借金は膨らんでいくばかりだった。
根本的に仕切り直すことにした。内装も変え、「見えんところばきれいにしとかな」という祖母の言葉を思い出し、トイレを増やした。窓を大きくとって外の景色が見えるようにもした。すると、酒場らしくない開放感が好感をもたれ評判になった。
一方で、金融機関を走り回って利子をまけてくれるよう頼んだり、借り換えに奔走したり…。だが、そんな姿は従業員には見せなかった。
全従業員を集めて、「私たちの仕事は“気働き産業”です」と宣言し、この精神をひとりひとりに叩き込んだ。
「“気働き”ができない人はいらない。お客様がお金を使ってくださるかわりに、私たちは気を使うんです」(藤堂さん)
おみやげもただ渡すだけではなく、「ゆっくり食べてくださいね」とひと言添える。グラスを差し出すのに、利き手と反対の手を使うように、というような指導もした。利き手を使えば動作が荒くなる。反対の手なら、自然にしとやかな動きになるからだ。
高級なスーツの肩に、フケが目立つ客がいた。藤堂さんはフケとりシャンプーをさりげなくプレゼントした。何回か続けているうちに、フケはなくなった。
見るからに冴えないネクタイをしているサラリーマンには、高価なネクタイをプレゼントしてあげる。「ママ、そういう出費を抑えていれば、ビルが建ったかもしれないね」といわれたことがあるが、藤堂さんは笑い飛ばした。
「ばあちゃんによくいわれたとよ。“お金は使えば増えていく”って。たとえ、ビルが建っても、人はついてこんよ」(藤堂さん)
『ロイヤルボックス』は右肩上がりに売り上げを伸ばしただけでなく、多くのファンをつかんだ。
そして「博多へ行ったら『ロイヤルボックス』」という合言葉になって、貴乃花(39才)、朝青龍(31才)、白鵬(27才)といった横綱、歌舞伎の坂東三津五郎(56才)、アサヒビールの瀬戸雄三元社長(82才)、オムロン創業者の立石一真氏(享年90)をはじめ、財界人やエリート官僚を集める店へと成長していく。
※女性セブン2012年5月31日号