国際陸連の決定により、マラソンのカンボジア代表としてロンドン五輪に出場する夢が潰えた猫ひろし(34)。代表に選ばれた際にはカンボジア国内から批判を受けたが、いまや反対に落胆の声が広がっている。この問題を現地取材しているフリーライターの鈴木智彦氏はいう。
「猫のロンドン五輪出場はカンボジアの国策でした。これによって日本からの観光客や投資が増えると踏んだため、カンボジアオリンピック委員会は、常に直接対決で猫より好タイムを記録しているライバルのヘム・ブンティン選手を退けて、強引ともいえる手法で猫を代表に選んだ。だから、カンボジアの五輪関係者はみながっかりしてますよ」
関係者の間では一時、猫がカンボジア国籍を捨てるのではないか、とも取り沙汰された。多数のカンボジア政府関係者と親しいプノンペン在住の日本人ビジネスマンはこう証言する。
「カンボジアオリンピック委員会のワット・チョモラーン事務局長は、猫のロンドン五輪出場が認められなくなった時点で『これ以上の抵抗はしない。猫がカンボジア人をやめるのは残念だ』とこぼしていた。その時点で、猫は日本国籍への復帰を模索していたのではないか」
疑念渦巻くなか、5月12日に猫ひろしは、急遽来日したチョモラーン事務局長とともに記者会見を開き、カンボジア人として4年後のリオデジャネイロ五輪へ再挑戦する意向を発表した。
「観光資源が豊富な国なので、スポーツと観光の組み合わせをカンボジアオリンピック委員会と一緒に考えていきたい」(猫)
カンボジア側の懸念を払拭した格好だが、それにはもう一つ事情があった。猫が出場を予定する6月開催のプノンペン国際ハーフマラソンには、猫が出場を始めた昨年来、彼の国籍取得をサポートした企業が多額の寄付を寄せている。寄付は今後も続けていく約束だという。
さらに、日本人の大会参加者を呼び込むツアーも企画されている。猫の支援者らにとっては、4年後まで猫にカンボジア人として走り続けてもらわなくては、とてもじゃないが採算が取れないのだ。4年後に38歳になる猫にとって、五輪出場は今回以上の高いハードルである。まさに、「取らぬ猫の皮算用」をはじいたツケを払わされることになる。
※週刊ポスト2012年6月1日号