今年度予算の生活保護費は約3兆7000億円で、受給者は約209万人(152万世帯)となり、過去最高となった。だが、生活保護制度の運用実態はあまり国民に知られていない。憲法25条に定められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するための制度は、「正直者がバカを見る」という悪平等を生んでいる現実がある。
その趣旨や目的から逸脱した不正受給問題により、「矛盾」や「不公平」が顕著になれば、制度そのものが問題視され、支援を必要とする人までもが社会から敵視されかねない。では、生活保護の受給者には、どのような「恩恵」と「制限」があるのか。
生活保護費は、国が定める「最低生活費」に基づいて決められている。年齢と居住地域によって違いがあるが、都内に住む30代の単身世帯なら、生活扶助8万3700円に加えて、住宅(家賃)扶助として最大5万3700円が加わり、合計13万7400円を毎月受け取ることができる。
都内の30代夫婦、就学年齢の子2人の世帯で試算した場合、扶養家族分の保護費に授業料や通学費などの教育関連扶助を加えると少なくとも月額29万4260円。年収にすれば350万円である。また、医療扶助により医療費が無料となるほか、住民税や水道基本料金、NHK受信料の免除、自治体運営の交通機関の無料乗車券など、事実上の“追加給付”もある。
ちなみに、都内の最低賃金(時給837円)で週5日、1日8時間働いた場合の収入は月額約13万4000円。しかも、ここから年金保険料や国民健康保険料、NHK受信料などを支払えば、それこそ生活もままならない。低賃金で働いた者の収入より、「働かずに得られる収入」の方が多いという不公平感は拭えない。
ただし、受給者の生活には一定の「制限」がある。
不動産の所有、生命保険・損害保険の加入、株式など有価証券の保有は認められず、車、貴金属、その他の「贅沢品」は申請の際に売却するなどして換金しなければならない。また、借金も「収入」と見なされるため、金融機関や知人からの借金、クレジットカード利用も不可となる。
だが、「贅沢品」の定義は「居住する地域での普及率が7割未満であること」となっているため、昔は認められなかったエアコンは今はOK。また、「就労のために必要なもの」は保有が認められる。生活保護を担当する厚労省社会・援護局はこう説明する。
「携帯電話やパソコンは就職活動に不可欠なものとみなされるので保有できる。車は僻地の居住者や障害者、自営のタクシー運転手などの場合のみ例外的に認められます。判断は各福祉事務所に委ねざるを得ない部分が大きく、線引きは難しい」
※週刊ポスト2012年6月1日号