野田佳彦首相は、「政治生命を懸けて、命を懸ける」と消費増税法案の今国会成立を断言し、片や小沢一郎・民主党元代表は、「国民に負担をいただく前にやるべきことがある」と法案反対の姿勢を変えようとはしない。
消費税政局の行方を決める2人の直接会談が決まると、小沢嫌いで増税礼賛の大メディアは、「小沢切りのセレモニー」だと囃し立てたが、それだけなら会談が成立するはずはない。
実は、会談に至る水面下では、野田首相が小沢氏に直接、電話を入れてサシでの会談を求めていた。それに対して、「小沢さんは、“われわれに話し合う余地があるのか”と取り合わなかった」(小沢側近)という。
「法案に賛成してほしい」
「それはできない」
――そう持論を述べあうだけでは、官邸側に都合のいい内容がメディアにリークされ、それこそ「決裂セレモニー」にされることを小沢氏はよくわかっている。
それでも、小沢氏は最終的には仲介者の輿石東・幹事長が立ち会うことを条件に3者会談を受け入れた。“落としどころ”は見えているのか。
「総理はここにきて採決より政権延命に舵を切った。官邸では、『チーム野田』と呼ばれる補佐官たちが“代表選選対”をつくり、中間派議員の陳情の面倒を見るなど票集めに走っている。岡田克也・副総理や前原誠司・政調会長ら有力な代表候補は一体改革の責任者だから代表選の準備をする暇がない。無罪判決を受けた小沢氏も控訴で出馬は難しくなった。
このまま強引に消費増税法案の採決に臨んで失敗すれば政権は終わる。総理も側近たちも、法案を土壇場で継続審議にして、9月の代表選で再選された後、採決に持ち込めば衆院の任期満了まで最長2年政権を保てるという欲が出てきた」(内閣官房の中堅官僚)
継続審議なら、増税解散を阻止して首相交代に持ち込みたい小沢氏も受け入れ可能で、党分裂を避けたい輿石氏の国会戦略とも一致する。三者三様、思惑は違うものの、増税先送りで妥協する芽が出たことで会談の舞台が整ったわけである。
野田首相が皮算用の通り政権延命できるほど情勢は容易でないにせよ、口では「増税に命を懸ける」とか、「ここで決断しなければ野田内閣の存在意義はありません」といいながら、国民に見せる姿勢と、見えないところでやっている裏工作が全く違うことが、この政権の本質なのだ。
※週刊ポスト2012年6月8日号