「今年最大のIPO(新規株式公開)」として注目を集めていたフェイスブック株は、5月18日の取引開始後の初値こそ42ドルをつけるものの、その後急落。初日の終値は38.23ドルと公開価格をわずか23セント上回っただけで、それ以降も下げ止まらず、上場3日目の22日の終値は31ドルと下落率は18%に達した。
すでに「適正価格は9.59ドル」などという予想が出回る中、米ジョン・トーマス・フィナンシャルの首席市場アナリストのウェイン・コフマン氏はロイターに「もっとましなものだと思っていたが、市場にはうんざりしている人であふれている」とばっさり切り捨てるコメントを寄せた。
これだけ酷評されるのも、事前の期待が予想以上に膨らんでいたことにほかならない。そもそも今回のIPOは、欧州債務危機などにより低迷する株式市場で、9億人を超えるユーザーを誇る同社が上場することで個人投資家を大量に呼び込むことが期待され、上場初日には30~50%もの大幅値上がりまで囁かれていた。
その期待は同社の株価だけでなく、「株式市場を通じてリスクマネーが新たなビジネスモデルを持つ企業に供給されることで、経済活動全体にダイナミズムが加わり、長期的に人々の生活水準や生産性の向上にもつながる」(マネックス証券チーフ・エコノミストの村上尚己氏)との見方もあった。
直近の米経済指標を見ても、雇用統計や住宅販売などは改善しつつある一方、製造業受注がマイナス幅を拡大するなど上昇の兆しに乏しかったため、フェイスブックの上場が景気回復の起爆剤となる期待も高まっていた。
ましてや6月中旬に再選挙を控えるギリシャのユーロ圏離脱が現実味を帯びるなど、まだまだ危機的状況が続く欧州勢からも、米国の景気回復に伴う経済波及効果に対する期待は小さくなかったようだ。
スペインでは、エウロパ・プレス通信が同国の金融取引サイトのジェネラル・ディレクター、アンドレス・ダンカウサ氏の「世界の金融市場が大不況の中、多くの投資家がフェイスブックに注目してバブル現象が起きている。期待を抱いて成功することも願っているが、失敗も起こり得る」と分析するコメントを掲載。
一方、デンマークのサクソ銀行の市場アナリスト、ピーター・ボー・キアル氏は、「フェイスブックのようにPER(株価収益率)が100倍を超える銘柄を持つ投資家たちに待ち受けているのは絶望か、過ちである。これが50~60倍になるのを待つべきだ」とメキシコのエコノミスタに投稿し、冷静さを取り戻すよう呼びかけている。
スイスの企業リスク専門家、ピーター・コウェルズ氏に至っては、「フェイスブックのような企業は2年以内に退位するでしょう。一般的にSNSは一世代で時代遅れの存在になります。フェイスブックのような業界の世代は、5年以上は続かないはずです」と仏経済誌・レクスパンシオンにコメントしている。
※週刊ポスト2012年6月8日号