「中華人民共和国琉球自治区」――中国では、沖縄を自国の領土として組み入れるかのような、こんな言葉が飛び交っている。目前に迫る危機に対して、日本政府にも、当の沖縄にも、自覚があるようには思えない。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、「返還40周年」の裏で起きている脅威を指摘する。
* * *
5月初旬の野田佳彦首相とオバマ大統領による日米首脳会談では、日米同盟の進展と米軍再編協議の前進は確認されましたが、沖縄・普天間飛行場の移設問題については事実上、棚上げとされました。
沖縄返還40周年の節目を前に、本来なら、日本政府は2006年の日米合意通りに辺野古に移設するための具体的な議論を進め、中国の脅威からの守りを強固にすべきです。
しかし、そうさせない大きな要因は、地元・沖縄の強硬な反対姿勢にあります。
米軍再編は沖縄の基地負担を大幅に緩和します。在沖縄海兵隊の国外への移転規模は8600人に及び、残留する海兵隊は1万900人に減ります。さらに沖縄県南部にある5つの米軍基地・施設が段階的に返還されます。
米軍基地が沖縄に占めている総面積も、再編によって大幅に少なくなります。そのことによる米軍および自衛隊の機能低下を避けるためには賢い工夫が必要で、そのひとつが普天間飛行場の辺野古への移設なのです。
基地負担の大幅軽減につながる再編に、沖縄の人々が反対するのはまったく理屈に合いません。負担軽減を強く主張しながら、実際に負担が軽減される措置に反対する“地元の意思”を見せつけられれば、米国が「本当に日本と沖縄はやる気があるのか」と疑うのも当然です。
しかしここで問われなければならないのは、地元メディアや政治家たちが主張する“地元の意思”は、本当に辺野古移設に対して「反対一色」なのかという点です。
2010年1月24日、辺野古のある名護市で市長選が行なわれ、受け入れ反対派の稲嶺進氏が容認派の島袋吉和氏に約1600票の差をつけ、1万7950票で当選しました。しかし、報道機関の出口調査によれば、辺野古地区の有権者の7~8割が島袋氏に投票していました。
地図を見ればわかるように、名護市は低い山々を境に、東部と西部に二分されます。辺野古のある東部は人口が少なく、西部には市役所や企業が立地して多くの人が住んでいます。この西部の有権者の過半が辺野古移設に反対したため、反対派の市長が当選したのです。受け入れ容認という“本当の地元”の声が、人口の多い地域の「反対」の声に封じ込められたとも言えます。
私が2010年春に辺野古区長の大城康昌氏らを取材した時、彼らはこう語りました。
「西部の人々は山の反対側にいるから、辺野古に飛行場が来ても騒音などとは無縁です。負担は我々が担うのです。『地元の中の地元』の我々の大半は、条件付きで受け入れを了承してきました」
中国の軍事的脅威から沖縄を、そして日本を守るのは、日米同盟に支えられた国防力に他なりません。であれば、彼らの「負担を担う覚悟」は、重視されるべきでしょう。
※SAPIO2012年6月6日号