故・ジャイアント馬場さんが読売ジャイアンツの投手であったことは有名だ。しかし、プロ野球選手としての活躍や実績については、あまり詳らかにはされていない。実は巨人のON、王貞治、長嶋茂雄のふたりとも練習をともにしていた。当時を知る王貞治氏(福岡ソフトバンクホークス会長)が“馬場正平投手”の思い出を語った。
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馬場さんのことで鮮明に覚えていることがあります。練習が終わった後、外野のライトに集合したんです。そして、みんなで車座になってサイダーを飲んだのですが、馬場さんは、そのサイダーをあっという間に飲んでしまったんですよ。
普通、サイダーみたいな炭酸飲料って、早く飲もうとしても喉につかえたりするものじゃないですか。それを馬場さんは、まるで水を飲むようにあっという間に飲んでしまったんです。あれには、いちばんびっくりしたかもしれません(笑)。
馬場さんは、僕と練習で顔を合わせると気さくに、「ワンちゃん、ワンちゃん」と呼んでくれたりして、とてもやさしく接してくれました。1軍の選手とは宿舎が別々なので、グラウンド以外で顔を合わせることはありませんでしたけれど。
当時の2軍監督だった千葉茂さんには、とても可愛がられていたと思います。それと、同期だった国松彰さんと馬場さんは、いちばん仲が良い関係だったと記憶しています。
そんな馬場さんが、野球選手を引退して、プロレスラーになると知ったときには、本当に驚きましたね。心優しい人柄の印象しか僕にはなかったので、プロレスのような激しく熱い世界に入るとは考えられませんでしたから。
僕らが子供のころは力道山、ルー・テーズ、シャープ兄弟など、プロレスラーが国民的なヒーローだった時代です。そりゃもう、誰もが街頭テレビで観戦しながら歓声を上げていました。そのリングに、馬場さんがレスラーとして立つ姿が、まったくイメージできませんでした。残念ながら、実際に試合を見る機会はありませんでしたが、テレビでは何度も何度も試合を見ました。そこには、完全にプロレスラーとして闘う馬場さんの姿がありました。
※DVD付きマガジン『ジャイアント馬場 甦る16文キック』第1巻(小学館)より