今年の秋、超大国・アメリカの国家元首を決める米大統領選挙が行なわれる。これまでも数々の激しい選挙戦が繰り広げられてきたが、落合信彦氏がその中でも名勝負というにふさわし戦いを振り返る。
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ジョン・F・ケネディがリチャード・ニクソンを破った1960年の選挙戦は史上最高の名勝負だったと言える。得票率の差はわずか0.1%だった。
副大統領として既に全米的な知名度を誇ったニクソンにケネディが挑む選挙戦に“upset(大逆転)”をもたらしたのは米大統領選史上初めて行なわれた「TVディベート」だった。
2人の身だしなみは対照的だった。ニクソンがグレーホワイトのスーツ、対するケネディはスタジオ到着後、周囲を見回して、側近の一人に大至急ホテルに戻ってブルーのスーツを持ってくるよう指示した。ニクソンの姿は白黒テレビの画面では背景の壁に溶け込んでしまい、その顔には病気上がりであることがはっきりと見えた。
それに比べて前日まで太陽が燦々と光るカリフォルニアでキャンペーンをしていたケネディの顔は日焼けし、精悍で見事なまでにくっきりと浮かび上がった。視聴者の心を掴んだのがケネディであることは言うまでもない。
1960年の選挙のドラマティックな展開については何度も解説してきたが、私がこの選挙戦を「名勝負」とするのは、接戦だったにもかかわらず、ケネディとニクソンが相手へのネガティブな攻撃をほとんどしなかったからである。正々堂々としたディベートと政策で2人は勝負していた。
※SAPIO2012年6月6日号