6月3日から、ついにサッカーW杯最終予選が始まる。過去にも様々なドラマを生んできただけに、今回も予想できない波乱の展開が巻き起こるかもしれない。そうしたなか、ここ数年、サッカー日本代表戦の中継に欠かせない存在になっているのが、解説の松木安太郎氏の存在だ。
松木氏はヴェルディ川崎の監督として、初代Jリーグ王者に輝き、2連覇を達成。その後はNHKの解説者を務めるなど、サッカー界の重鎮として名を馳せると思われていた。だが、2000年代に入ってから、突如として解説時に絶叫するスタイルを確立したのだ。
当初はファンから嫌がられることも多かった叫び声だが、近年は「松木の叫びがないとサッカーを観ている気がしない」とまでいわれるようになった。これまで野球中継や五輪中継などで、絶叫するアナウンサーや解説者はいたが、受け入れられることはほとんどなかった。
特に、2000年9月14日に行われたシドニー五輪・日本VS南アフリカの試合で、日本テレビの船越雅史アナ(当時)が高原直泰のゴールの際に何度も何度も「ゴォーーール」と絶叫し大顰蹙を買った例が名高い。にもかかわらず、なぜ、松木氏の絶叫は視聴者のハートをつかむのだろうか? テレビ関係者がこう分析する。
「スポーツ中継では、ディレクターが解説者やアナウンサーに『ここ盛り上げて!』と指示を出すことがあります。ザッピング全盛時代の昨今、アナウンサーが叫んでいれば何が起こっているのかと手を止めますからね。ただ、そのためにずっと観ている人やサポーターはシラけてしまうわけです。
松木さんの場合は、その計算がまったくない。別にディレクターが指示しようとしまいと、ずっと心の叫びを続けているわけです。先日の格下・アゼルバイジャン戦では、いつものような叫びは聞かれなかったのも、計算していない証拠でしょう」
これに加え、“松木伝説”なるものが生まれているのも、人気の理由の1つらしい。サッカーライターの一人が解説する。
「2005年のW杯予選、ホームでの北朝鮮戦、1対1で迎えた終盤、松木さんは『絶対にあきらめちゃいかん!』と叫びまくりました。その甲斐あってか、最後はFW大黒将志がゴールを決めて、辛勝。2004年アジア杯で劣勢に立ったときも、『絶対にあきらめてはいけません!』と松木が叫ぶことで、ロスタイムに追い付いたのです。
松木さんの叫びは、サポーターの叫びを代弁しており、それに後押しされた日本代表が粘り強さを見せる。
1993年や1997年のW杯予選では、ロスタイムに追い付かれることもありましたが、1993年当時はまだヴェルディ川崎の監督でしたし、1997年は解説者になっていたものの、今ほど叫びはしませんでしたからね。松木さんが叫び出してから日本は勝負強くなった印象があります」
W杯最終予選で苦しい場面を迎えたとき、松木氏の絶叫が、日本代表の追い風となるかもしれない。