12年ぶりにユニフォームに袖を通した権藤博・中日投手コーチに注目が集まっている。圧倒的な強さで黄金時代を築き上げた落合博満監督が解任され、新たなスタートを切った中日の強みは「投手力」。「落合の遺産で勝っている」などと揶揄される現状に対し、投手陣の総責任者はどう答えるのか。本音を聞いた――。
「落合は不気味さがあり、ドッシリ構えて監督としての威厳もある。考え方や采配にブレがないのも立派です。ただ、実際のところは何もやっていません。一番わかりやすいのはバッティング。監督があれだけの選手なのに、打線は今年の方がずっといい。(打撃理論が)難しすぎて、選手がついてこれなかったんじゃないですかね。
よく“いい”といわれる投手だって、実際に動いていたのはブルペン担当の近藤(真市)と、コンディショニングの三木(安司)の両コーチ。彼らは今年もチームに残っているが、体の作り方がうまく感心した。昨年までの連投を支えたのは、紛れもなく彼らの力でしょう。実務の面は、三木と近藤に任せておけば大丈夫だから、キャンプの時はじっと黙って見ていました」(権藤コーチ)
それでも故障者が続出したのは、落合野球での積み重ねでかなりの無理が生じていたということだろう。8年間で4度の優勝という常勝軍団を作り上げた落合野球だが、その代償も大きかった。
特に問題だったのは、中継ぎ・抑えだ。権藤は常々「近代野球は7回からのしのぎ合い」と語っているように、「権藤野球」の中で中継ぎ・抑えは重要な役割を果たす。その中で浅尾と岩瀬の今年の投球内容は、昨年までとは雲泥の差である。ここ3年間の、毎年60~70試合という登板過多による勤続疲労が背景にあった。権藤はまず、昨年のMVP・浅尾をあっさりと登録抹消し、二軍行きを命じた。
「5回も失敗して、本人も萎縮していた。昨年の後半からずっと、緊張の中でマウンドに立っていて、今年も最初から飛ばしていけという方が無理ですよ。昨年のままの状態でいったならば、8月、9月に潰れてしまう。どこかで緊張を解いてやらなければ持たない。まあそのうち上(一軍)で野球がやりたくてウズウズしてくるはず。そうなったら上げればいいと思っています。
岩瀬の場合は、逆転さえされなければ仕事をしているということなんです。同点までなら失敗ではない。アイツはああ見えてしぶといから問題ない。浅尾が戻るまでは、山井、田島、小林、ソーサでしのいでいかなければならないが、そのやりくりをするのが僕の仕事じゃないですか」
●永谷脩(スポーツライター)/文中敬称略
※週刊ポスト2012年6月8日号