役人、政治家、電力会社、大マスコミが口を揃えて同じ事をいったなら、たぶんそれは嘘だ。この夏の節電要請に「長すぎる」と疑問を抱かないのなら、すでに電力マフィアたちの術中に嵌っているから要注意。
電力マフィアの言い分を素直に信じれば、行きつく先は「安全なき原発再稼働」しかない。政府が公表した今夏の電力需給対策は、国民にかつてない負担を強いるものだが、その必要性には大いに疑問がある。
まず数値目標を定めない節電を全国で7月2日~9月28日にかけて求める。
その上で、関西電力では7月2日から9月7日までの約2か月間、一昨年比15%以上の数値目標付き節電を利用者に要請。九州電力では10%以上、四国電力、北海道電力(7月23日~9月14日))では7%以上となっている。関電への電力融通を行なう中部・北陸・中国の3社も5%の節電を行なう。
国民生活と経済に与える影響は甚大だ。すでに阪急電鉄では一部列車の運行区間の短縮、阪神電鉄では日中の急行列車を減らす検討をしている。大阪市交通局では全133駅の冷房を正午~午後3時まで止める案がある。
総務省統計によれば、昨年7~9月の熱中症による救急搬送人員は全国で3万9489人。記録的猛暑だった2010年よりは少ないが、同じ程度の気温だった2009年と比較すると3倍である。節電は命を奪う重大事だという認識が必要なのだ。
節電要請の基準となった「想定需要」は、観測史上最高の猛暑だった2010年のものだ。「平年並みの気温と見られる今夏に適用するのはおかしい」という批判は当然だ。ただし、最悪の事態を想定するのがリスクマネジメントの基本であることを考えれば、それはそれでもいいという考え方も成り立つ。
だとしても、約2か月間、午前9時~午後8時という総計506時間に及ぶ節電の押し付けは明らかにやり過ぎだ。
本誌は各電力会社発表の「過去3年間の7月~9月の需要ロードカーブ」を元に、2010年の7月2日~9月7日の間(土日祝日と8月13~15日を除く)、午前9時から午後8時までのすべての時間帯における電力需要の実績値を調べた。その上で各社が示した今夏の最大供給予測と比較した。
結論からいえば、約2か月の長期節電は必要ない。
まず7月2日スタートという性急さから首を傾げざるをえない。四国電力と北海道電力は、7月に今夏の最大供給予測を超えたことは一度もない。九州電力でも7月19日までなし。もっとも電力不足とされる関西電力でも、7月前半(15日)までに供給をオーバーするのはわずか3日(計11時間)だけだ。
さらに7~9月で見ても需要が供給を上回るケースはごくわずかだ。北海道電力では37日間中6日(計30時間)、四国電力では46日間中5日間(計10時間)。北陸電力は9月の2日のみ(計8時間)。中部電力、中国電力に至っては「ゼロ」だった。
関西電力については、確かに8月は1日を除いてすべて供給をオーバーするなど、電力需給が逼迫していることが窺える。
ただし「時間帯」で見ればそうでもない。午前9時台から節電を始める根拠は乏しい。午前9時台、午後7時台に需要が供給を超える日は7月20日までは1日もない。期間全体でも午前9時台は46日中22日のみ。午後7時台も21日のみと、どちらも半分に満たない。
北海道電力、九州電力、四国電力でも、午前9時台、10時台に今夏の供給予測をオーバーしたことは一度もないのである。
このデータを元に各電力会社に「長すぎる節電」への見解を問うと、
「今夏の気温については現時点では想定できず、供給責任を全うし、1日たりとも停電させないために、至近の過去実績である平成22年並の猛暑を織り込んでいる。過去に発生した実績であり決して過大なものではない」(関西電力広報室)
などとして、揃って計画の妥当性を主張した。
関西電力は節電を求める一方で、「大飯原発を再稼働すれば電力は足りる」と主張し続けている。国民が“背に腹は代えられぬ”と音を上げる日を手ぐすね引いて待っているのだ。
※週刊ポスト2012年6月8日号