老後の生活を支える年金だが、どれくらいもらえるのか、どうやったら多くもらえるのか、という点を不安に感じている人も少なくないはず。そこで、やはり年金について悩みを抱えているという、専業主婦のA子さん(56才)の例を見てみる。
子供2人が無事社会人となり、あとは夫婦で老後を迎えるだけとなったA子さん(56才)。A子さんには、同じように子育てを終えた仲の良いママ友グループが4人いる。ひとたび集まるとおしゃべりが止まらない。最近もっぱらの話題は、「年金をいつからもらい始めたら得なのか」だ。
というのも、すでに60才になったママ友のひとりが年金の受給を始め、「みんなも60才からもらったほうが絶対にお得よ」といい始めたからだ。A子さんがいう。
「“孫とバスツアーに行った”“娘と食べ放題に行った”なんて聞いてうらやましく思います。他のママ友もみんな“早くもらったほうが得”だって。私も早く年金生活を送りたいんですが、60才からもらっていいものでしょうか?」
専業主婦にとって、年金は待ちに待った“大きな小遣い”なのだ。だが、そこでA子さんを悩ませるのは、年金をもらい始めるタイミング。年金は本来65才からもらうもの。最大5年間前倒しして60才からもらうこともできるが、その場合、受給額が下がってしまう。
しかし、5年も早まるなら、そちらのほうが得な気もする。「60才から」と「65才から」いったいどっちが正解なのか。特定社会保険労務士の長沢有紀さんが解説する。
「年金を予定より早くもらうことを『繰り上げ受給』といいます。年金事務所に申請すれば1か月単位で早めることができますが、1か月早めるごとに受給額は0.5%ずつ減ります。わずか0.5%でもチリも積もれば山。5年間繰り上げして60才で受け取る場合、65才で受け取る年金額に比べて30%も減ってしまいます」(長沢さん)
A子さんが年金を60才からもらうとすると、65才受給に比べて2万円少ない月4万5500円に減ってしまう。総受給額(受け取る年金の合計額)を比較しても、60才受給は65才受給に77才で逆転される。
「つまり、77才以上長生きする人は、65才からもらったほうが得ということ。日本人の平均寿命は男性79才、女性は86才なので“繰り上げ”は損といえるでしょう。老後の月2万円の差は大きい。医療や介護が必要になったころにお金が足りなくなり、生活が苦しくなることも考えられます。一度、繰り上げてしまうと元に戻せないので、周囲にまどわされないで、老後の資金設計をしっかり立ててから、年金をもらう時期を決めましょう」(長沢さん)
※女性セブン2012年6月14日号