独裁国家の中国ではびこる “不正蓄財文化”。重慶市トップを解任された薄熙来氏の蓄財は4800億円にも上るとの報道もあった。中国国内事情に詳しいジャーナリストの相馬勝氏が役人の蓄財に関する実情を解説する。
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そもそも、中国では権威を利用してのコネクション・ビジネスが留まるところを知らない。ブルームバーグ通信(今年4月23日付)によると、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)の代表委員の長者番付上位70位の資産合計は900億ドル(約7兆2000億円)で、これは米政府・議会のトップ660人の資産合計の12倍にも上るという。
中国の政権幹部の動静に詳しい米インディアナ大の中国政治経済研究所のスコット・ケネディ所長は、「水が高いところから低いところに流れるように、中国では金は権力者に向かって流れ込む。太子党(高級幹部の子弟)のファミリーは多かれ少なかれ口利き事業をしている。いちいち調べていたら、それこそ共産党幹部はほとんど逮捕されてしまう」と指摘する。
典型的なケースは曾慶紅・元国家副主席の弟、曾慶准氏と、田紀雲・元副首相の息子の田承剛氏が挙げられる。曾、田両氏とも1990年代に香港に移り住み、香港の大手デベロッパー「恒基地産」の顧問として、中国各地の不動産開発プロジェクトに関わってきた。
今年3月、2人が関わったプロジェクトに関して、同社による脱税などの裁判が結審し、有罪判決が下されている。同社は2005~2006年の2年間で中国での不動産開発プロジェクトで約15億ドル(約1200億円)の利益を得たが、届け出をせずに脱税した。
報道によると、同社は曾、田両氏にそれぞれ年間65万ドル(約5200万円)の顧問料を支払い、さらに成功報酬としてそれぞれ550万ドル(約4億4000万円)を支払ったほか、家賃92万円の高級マンションも手配していた。
そのほかにも、共産党最高幹部の親族の不正ビジネスにまつわる噂は枚挙にいとまがない。江沢民・前国家主席の長男・江綿恒氏や、胡錦濤主席の長男・胡海峰氏の“親の七光り”ビジネス。温家宝首相の前妻の宝石ビジネスや、長男の温雲松氏によるインサイダーまがいの投資事業。さらに次期最高指導者である習近平国家副主席の姉夫婦や弟の不動産事業……。
気鋭の中国研究者、米ノース・ウェスタン大のビクター・シー准教授はこう断じる。
「高級幹部子弟のコネクション・ビジネスは中国では常識だ。しかし、権力闘争では汚職摘発がきっかけになる例がほとんどで、薄熙来事件はその典型的なケースだ。中国では権力と財力とは比例する」
だからこそ、この国の権力闘争はますます激しくならざるをえないのである。
※SAPIO2012年6月6日号