国内

水木しげる つげ義春を「つげは怠け者ですよ。けしからん」

 松田哲夫氏は1947年生まれ。編集者(元筑摩書房専務取締役)。書評家。浅田彰『逃走論』、赤瀬川源平『老人力』などの話題作を編集。1996年に TBS系テレビ『王様のブランチ』本コーナーのコメンテーターになり12年半務めた松田氏が、つげ義春について語る。

 * * *
 漫画雑誌「ガロ」からは多くの個性豊かな作家が生まれた。なかでも、つげ義春さんの作品群の放つ光は、半世紀近い時間を経ても薄れることなく輝き続けている。

 一時期、水木プロダクションでアシスタント的な仕事をしていたつげさんについて、水木しげるさんは、よくこう慨嘆していた。自分流の生き方で充実した人生を送ってきた水木さんにしては珍しいことだった。

「つげは怠け者ですよ。いっこうに仕事をしない。それなのに、同じ作品が何度も何度も使われてお金が入ってくる。自分は、あくせく新しい作品を描かなければやっていけないのに。けしからんですよ」

 つげさんは、一九五四年、十七歳のとき、雑誌に作品が掲載され、翌年、プロデビュー。それから五八年ごろまでは、少女物、時代劇、ミステリーなど貸本漫画を描く。五八年末あたりから六四年ぐらいまで、雑誌形式の貸本漫画に暗いミステリー短編を発表。また六〇年から六五年初めまで、白土三平作品の人気にのった忍者漫画も描いていた(貸本時代)。

 六五年夏、「ガロ」にデビュー。数作の助走的作品の後、六六年二月「沼」から六八年八月「もっきり屋の少女」まで、「李さん一家」、「紅い花」、「海辺の叙景」、「ねじ式」など、奇跡のような傑作十七作を「ガロ」に続けて発表(「ガロ」時代)。

 七二年ごろから、「夜行」、「カスタムコミック」、「COMICばく」や青年コミック誌に作品を単発的に発表。そして、八七年九月「別離」後編を最後に、漫画作品は約二十五年間描いていない(青年誌時代)。

 水木さんの言うように、いろんな出版社で、いろんな判型で、繰り返し本になり売れ続けるのがつげ作品の特徴だ。現在入手可能な本は二十数点にのぼり、全作品の八割ぐらいが含まれている。

 とりわけ「ガロ」時代の奇跡の傑作群のリピート率は高い。現在、五種類の版が生きている。同じ作品なのに、新しい本が出ると必ず買うファンもいるし、新しい読者も生まれているようだ。作品数も少なく、四半世紀も新作を発表していない作家としては、この衰えない人気は奇跡に近い。

※週刊ポスト2012年6月8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《真美子さんの献身》大谷翔平が「産休2日」で電撃復帰&“パパ初ホームラン”を決めた理由 「MLBの顔」として示した“自覚”
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《ラジオ生出演で今後は?》永野芽郁が不倫報道を「誤解」と説明も「ピュア」「透明感」とは真逆のスキャンダルに、臨床心理士が指摘する「ベッキーのケース」
NEWSポストセブン
日米通算200勝を前に渋みが続く田中
15歳の田中将大を“投手に抜擢”した恩師が語る「指先の感覚が良かった」の原点 大願の200勝に向けて「スタイルチェンジが必要」のエールを贈る
週刊ポスト
渡邊渚さんの最新インタビュー
元フジテレビアナ・渡邊渚さん最新インタビュー 激動の日々を乗り越えて「少し落ち着いてきました」、連載エッセイも再開予定で「女性ファンが増えたことが嬉しい」
週刊ポスト
裏アカ騒動、その代償は大きかった
《まじで早く辞めてくんねえかな》モー娘。北川莉央“裏アカ流出騒動” 同じ騒ぎ起こした先輩アイドルと同じ「ソロの道」歩むか
NEWSポストセブン
主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
【斎藤元彦知事の「公選法違反」疑惑】「merchu」折田楓社長がガサ入れ後もひっそり続けていた“仕事” 広島市の担当者「『仕事できるのかな』と気になっていましたが」
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
【「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手】積水ハウス55億円詐欺事件・受刑者との往復書簡 “主犯格”は「騙された」と主張、食い違う当事者たちの言い分
週刊ポスト
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(61)と浜田雅功(61)
ダウンタウン・浜田雅功「復活の舞台」で松本人志が「サプライズ登場」する可能性 「30年前の紅白歌合戦が思い出される」との声も
週刊ポスト
4月24日発売の『週刊文春』で、“二股交際疑惑”を報じられた女優・永野芽郁
【ギリギリセーフの可能性も】不倫報道・永野芽郁と田中圭のCMクライアント企業は横並びで「様子見」…NTTコミュニケーションズほか寄せられた「見解」
NEWSポストセブン
ミニから美脚が飛び出す深田恭子
《半同棲ライフの実態》深田恭子の新恋人“茶髪にピアスのテレビマン”が匂わせから一転、SNSを削除した理由「彼なりに覚悟を示した」
NEWSポストセブン
保育士の行仕由佳さん(35)とプロボクサーだった佐藤蓮真容疑者(21)の関係とはいったい──(本人SNSより)
《宮城・保育士死体遺棄》「亡くなった女性とは“親しい仲”だと聞いていました」行仕由佳さんとプロボクサー・佐藤蓮真容疑者(21)の“意外な関係性”
NEWSポストセブン
過去のセクハラが報じられた石橋貴明
とんねるず・石橋貴明 恒例の人気特番が消滅危機のなか「がん闘病」を支える女性
週刊ポスト