最近流行の食品メーカーのレシピ本。お茶づけ海苔から豆乳、カルピスまでも。果たしてその料理やいかに? 食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏が、驚愕のレシピを紹介する。
* * *
ここ数か月、ずっと気になり続けている本が何冊かある。食品メーカー監修の新書サイズのレシピ本だ。キッコーマン社員のとっておきレシピだという『ヘルシー! 豆乳レシピ』(ワニブックス)、お茶づけ海苔のアレンジ料理を紹介した『永谷園のお茶づけ海苔でおもてなし』(ぶんか社)、「おかめ納豆」で知られるタカノフーズが監修した『おかめちゃんの栄養たっぷり納豆レシピ』(ワニブックス)など、いずれも商品パッケージを模したデザインが特徴で、棚でとても目立っている。参加する料理ユニット「給食系男子」の『家メシ道場』の様子を見に書店に行くと、同じ判型だからか必ず近くの棚に置かれている。
気になって仕方がないので、トレンドの火つけ役となった『カルピス社員のとっておきレシピ』(池田書店)も含め、片っ端から買い込み、レシピを読み解いてみることにした。(書名が長いので、以下、豆乳本、お茶づけ本、納豆本、カルピス本とさせていただきます)
当然ながら、いずれの本も必ず商品が何らかの形で盛り込まれている。さらにふだん店頭で置かれている棚が違うのに、どの本も主食からデザートまで幅広いメニュー構成を採用している。
カルピス本と豆乳本はドリンクから、納豆本もごはんにのせるレシピからと、導入部に本来の使い方に近いレシピを配している。好事家なら試したことのありそうなメニューも多い。お茶づけ本の導入は、もやしやきゅうりの和え物という、塩昆布を使った浅漬けにも似たレシピからのスタートだが、違和感はない。
だが中盤以降、それぞれの特徴がクッキリしてくる。納豆本はあくまで粘り強く、納豆に存在感を感じるレシピを提案する。一部にアイスクリームと混ぜ合わせた「バニラ納豆」や「納豆ヨーグルトパンケーキ」などチャレンジングなメニューもあるが、甘味は二品だけ。納豆としての矜持が全編に貫かれている。
カルピス本と豆乳本の構成は比較的似通っているが、この世界を切り開いたカルピス本は中盤以降、先行者ならではの苦しい展開が散見される。「豚キムチ」「納豆パスタ」など味の強いメニューの隠し味として使われる場面もあり、甘味と酸味の絶妙なバランスを持つ、僕の大好きなカルピスがもったいない使われ方をされているようにも思える。
さすがに牛乳代わりにあれこれ使える豆乳相手では、若干の分の悪さは否めないということか。ただし、豆乳本も「豆乳チーズフォンデュ」でグリュイエールチーズやエメンタールチーズなど、近所のスーパーでは手に入りにくい素材をレシピに使っている。カルピス本にもフルーツポンチのカルピスがけのように、代えの効かない強力な一撃もあり、甲乙つけがたい。
他方、圧倒的な力業を見せるのが、お茶づけ本だ。煮物にサラダにスープ、肉にごはんにパン(しかも生地!)にケーキと、縦横無尽にすべての料理のフィールドに切り込んでいく。「牛肉とマッシュルームのオイルコンフィ」や「食パンdeピロシキ」など意欲的なメニューがずらりと並ぶ。
最終章でお茶づけに戻り、拍子抜けしそうになったところ、最後のレシピにはフライドオニオンやアーモンドダイスという、入手難度の高い食材が! さすが、商品展開からCMまで、さまざまな冒険をしてきた永谷園。その心意気には脱帽というしかない。
すべての本に共通することだが、限定された食材で主食からデザートまで含めた、数十以上のメニューを開発するのは、いかばかりの苦労があったことか。レシピ開発された方々には頭の下がる思いだ。ただ申し訳ないことに、僕の食材庫には普段カルピスも豆乳もお茶づけ海苔も常備されていない。というわけで、僕が活用できるのは納豆本くらいになりそうだ。