野田佳彦首相は、消費税増税法案の「今国会成立に命を懸ける」と宣言した。野田首相が財務官僚の“操り人形”になっているとはよく言われるが、財務省の役人たちは、どのようにして政治権力をコントロールしているのか。元財務官僚である高橋洋一・嘉悦大学教授が、その“操りテクニック”を明らかにする。
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野田首相や、財務大臣経験者の谷垣禎一・自民党総裁、さらに与野党の有力政治家まで、財務官僚から長い時間をかけて「増税は正義」と刷り込まれている国会議員は多い。
本来、増税を実施するには強い政権基盤が必要だ。しかし、野田内閣の支持率は20%台。こんな政権基盤が弱い内閣に国民の半数以上が反対する消費税増税は不可能のはずだが、財務省は民主党と自民党の協力で法案を成立させるというマジックを本気でやってのけようとしている。今や財務省は日本の政治、国会そのものを支配しようとしていると言える。
彼らは、どのようにして政治家を思い通りに動かしているのか。
財務官僚は、“スケジュール戦術”や“ささやき腹話術”、“国会答弁誘導術”といったテクニックの数々を駆使する。
大臣など政務三役であれば、応援演説、仲間の議員のパーティでの挨拶など、いつ、どこで発言する機会があるかという政務のスケジュールを把握しておく。政治家は演説のネタを常に必要としているから、公用車に同乗した秘書官などが演説の前に言わせたい話をささやく。すると、政治家のほうも「今の話、メモはないのか」と飛びつく。もちろん、メモは事前に用意しておく。こうして財務官僚の腹話術が完成する。
どこの省庁でもこのような手法で大臣や副大臣の発言を自分の省に有利な方向に“誘導”しようとしているが、中でも財務省がすごいのは、将来有望な政治家との個人的なコネクションを若い時から作っておくシステムができあがっていることである。
実際、私が旧大蔵省に入省した時には、入省直後の5月から、与野党議員への質問取りをさせられた。他の省庁では40代の課長や課長補佐クラスがやっていることを、新入職員時代からやらせて、個人的な信頼関係を得る。そして財務官僚と政治家の「勉強会」の実施などに繋げていくのだ。こうして付き合いを深めていけば、“ささやき腹話術”がより効果的に働く。
また、財務省には高校別・出身県別のいわば“派閥システム”があり、例えば有力政治家の高校の後輩が省内にいれば、自然と紹介されて人脈ができるようになっている。こうしたシステムにより、有力政治家を籠絡していくのだ。
前出の“ささやき腹話術”にも、やり方のバリエーションがある。増税のように政治家が嫌がるテーマの場合は、いきなり「増税が必要」と腹話術をしようとしてもできないから、二段論法、三段論法で追い込んでいく。
例えば、最初の演説では、「このままでは日本はギリシャ化する」と財政再建を訴えさせる。たとえ増税に慎重な政治家でも、財政再建の必要性は否定できないから“ささやき腹話術”にはまりやすい。
次の段階の演説では、「ヨーロッパでは消費税の税率が15~20%のところが多い」という内容のメモを渡す。そして3段階目の演説で、「日本の消費税は5%、段階的に上げていかなければならない」と言わせるわけだ。財務官僚が作る国会答弁のメモでも同じである。そして既成事実を作って、思い通りに進めるのだ。
※SAPIO2012年6月6日号