エッセイマンガ『日本人の知らない日本語』は2009年2月に第1巻が刊行され、最新刊第3巻までのシリーズ累計が190万部を突破する大ベストセラー作品だ。
作品は2010年にドラマ化もされた。主演を務めた仲里依紗は、当時のインタビューで作品の魅力を、「自分の中の(日本語の)引き出しがすごく増えた感じがする」「普通に使っていた言葉が正しくないと知った」と、話していた。
物語は日本語学校を舞台として、そこで日本語を教える海野凪子(うみの・なぎこ)先生と、熱意あふれる外国人生徒たちの奮闘ぶりが愉快に描かれている。任侠映画で日本語への興味が高まったフランス人や、日本には忍者がいると信じて疑わないスウェーデン人など、個性的なキャラクターたちの日本のイメージには、思わず笑ってしまうものや、ハッとさせられるものばかり。
日本語学校でのエピソードだけでなく、凪子先生が日本語に関する豆知識をコラムで紹介していたり、外国人が日本に抱く文化の違いが一コママンガでちりばめられるなど、日本人が読んでも勉強になる作品なのである。
マンガ解説者の南信長氏は、日本人が好きなツボを押さえているところがヒットの理由と話す。
「日本人は基本的に“外国人から見た日本”ネタが好き。このマンガも、外国人が日本と日本語について『ここがヘンだよ』と疑問に感じたことをネタにしている部分がある。一方で、日本が好きで日本語を習っている人たちですから、日本や日本文化への敬意もある。笑える勘違いをしたりもする。
さらに、『へえー』と思わせるウンチク的面白さ、親しみやすさがウケたんでしょう。外国人たちのトンチンカンな日本語を笑った後で、ふと自分自身の日本語をふり返るきっかけにもなりますからね」
舞台となっている日本語学校、そして、日本語教師という存在は私たちからすると決して身近な存在ではない。日本語学校は、現在全国で約450校あり、生徒数はおよそ3万3000人程度(財団法人日本語教育振興協会調べ)。
日本語学校の教師になるためには、大学で日本語教育に関する主専攻を修了することや、420時間以上の養成講座を修了すること(四大卒、または高校の教諭経験者であることが前提)などがあげられる。この作品を読むことで、そういった知られざる世界を覗き見ることができるのも特徴だろう。
作品の担当編集者は、 「小学生からお年寄りまで幅広い層の方に楽しんでもらえる作品です。実際に、『マンガを読んだことがなかったけど、勉強にもなるし、とても面白かった。あらためて日本語への興味が湧いた』という高齢の方から感想のお手紙もいただいています」と、話す。
一方で、作品を描いた漫画家の蛇蔵(へびぞう)氏はこう明かす。
「本が置いてある場所が女性向けのコーナーであることが多いので、男性の認知度が低いのが悩みなんです。透明のビニールカバーが掛かっていて中身が確かめられないことも多いので、少しでも内容を知ってもらえたら良いなと思います」
※週刊ポスト2012年6月15日号