「アーカンソー、アラスカ、アラバマ、アリゾナ……」。彼は、ABC順にすらすらと、アメリカの州名を暗誦してみせた。セリフ覚えの訓練のためにと、還暦を過ぎてからやり出した記憶トレーニングのテーマは、東海道五十三次、米大リーグにJリーグのチーム名と、枚挙に暇がない。円周率にいたっては、1000桁にまで達したという。
伊東四朗は75歳になる今年も、現在放映中のNHK大河ドラマ『平清盛』で、物語の鍵となる清盛の実父、白河法皇を演じるなどマルチな活躍を続けている。
そんな伊東氏が「あんたがたタフマン♪」でお馴染みの栄養ドリンクタフマンのCMに登場するようになったのは1985年のこと。『タフマン』の化身として、強烈な個性を放ちながら、コミカルにサラリーマンを応援するヒーローを長年演じてきた。
今回の新作CMの一つ「どこから来たの?」編でも、タフマン伊東がOLに出身地を問われ、とっさの思いつきで「東中野」と答える。そういった何気ない会話で軽妙な笑いを展開する。ヤクルト本社広告部・杉田宏之氏は語る。
「CMは、伊東さん流の喜劇といいますか、元気さ、面白さ、時に毒っけがあったり、少しシュールな笑いのある、タフマンの世界観を見せたものになっています。スタート当初の監督は故・市川準さんでした。その時に確立されたスタイルが、演出しないということです。大まかなコンテはあるけれど、一度カメラを回し始めるとカットをかけずにひたすら伊東さんの内面から何かが湧き出てくるのを待つ。このシリーズは伊東さんの瞬発力で作っているんです」
日本を代表する喜劇人として、彼は新しい挑戦を続けている。
「喜劇とは、面白いことを無理にやるものではない。普通の人間の普通の生活に伏線がいろいろあって、普通の会話がおかしいというものだと思う。いま三谷幸喜氏に再来年の喜寿祝いの脚本をお願いしているんです。見終わった人が、例えば本多劇場だったら、下北沢の駅に着くまでに筋なんか忘れて、ただ面白かったなあって、私はそういうのが一番好きなんですよ」(伊東氏)
最後に杉田氏から、タフマンにまつわる5つの裏話を教えてもらったので紹介しよう。
【1】タフマンのCMはいつ生まれた?
タフマンの初代CMは1985年に放映。監督はあの市川準氏。以来2008年に亡くなるまで、伊東氏とコンビを組みタフマンの世界観を築いた。
【2】タフマンのロゴマークの由来とは?
公式見解としては地殻のマグマから湧き出るエネルギーを模したものといわれる。しかし、ボクシングのグローブに見えるなど諸説あり。
【3】過去のCMにあの有名タレントが
1980年代後半のタフマンのCMには、エキストラとして、俳優の田中涼成氏、酒井敏也氏が出演していた。まだ毛髪豊かな若かりし姿が見られる。
【4】過去にもっとも印象的だったCMは?
伊東氏がもっとも印象に残っているという作品が1993年の「ドーンとやらねば」編。鎧甲を身につけたものも現在の衣装にもつながる一作。
【5】タフマンとヤクルトを混ぜると?
「ヤクマン」というドリンクになる。これれっきとした公式ドリンク。ヤクルト本社1階の『カフェ デ ブラジリア』にて販売されている(500円)。
※週刊ポスト2012年6月15日号