ツイッターで記者を実名で罵る。会見の模様は市のホームページにアップする。活字媒体の単独取材には応じない。いつのまにか夜討ち朝駆けの習慣は失われた。大阪市の橋下徹市長によって既存マスコミの枠組みは崩壊した。会見場には番記者たちの「挽歌」が鳴り響く。
橋下市長は週1回の定例会見の他、登庁・退庁時の1日2回、“ぶら下がり”と呼ばれる囲み取材に応じる。開始5分前。新聞記者はノートパソコンを片手に持った20~30代の若い記者を中心に18人ほどで、計30人の取材陣が集まっていた。
本誌記者が異様に感じたのは、橋下市長に背を向けて受付カウンターにパソコンを置いて発言内容を一心不乱に打ち込む若い記者の姿だ。全記者の半数近い。
橋下市長の声から数秒遅れで鳴り響くカチカチカチ――。その一人に訊いた。
「お尻を向けて失礼だと思われるでしょうが仕方ない。会見内容をすぐに他部署や本社に伝える必要があります。言わずもがなだけど橋下さんは全国区。知事や永田町に追加取材する必要があるからね。同時発信しないと夕刊に間に合わない」
そう語る大手紙記者も、近現代史関連の発言が続く橋下市長の口から「東京裁判」のフレーズが出てきた時、思わず振り返った。番記者の一人が質問する。
「市長は東京裁判を否定する立場ですか」
橋下市長が返す。
「それはないです。ただ、敗戦国の立場として仕方がない部分はあるが、東京裁判に問題点があることは間違いない。中国や韓国ではきちっと自国の歴史について教えていますよ」
会見場が少しざわついた。それを見ながら、在阪テレビのディレクターが呆れた。
「記者たちは、全国向けのいいコメントを取ったと思っているんでしょう。要はね、市政ネタなんてどうでもいいんですよ。本来の仕事は市立動物園から天神橋商店街のことまで市民生活について細かく聞かないといけない。
しかし、そんな質問をしていると、ネットで『つまらない発言をするな』と叩かれる。社名を名乗って質問しているので名指しで叩かれてしまう。会社からも苦言を呈されるんですよ。それよりも、『理想の上司ナンバー1に選ばれたので、感想を聞け』とね」
※週刊ポスト2012年6月15日号