中国が総領事館の建設用地名目で新潟市から5000坪もの土地を買収した問題は、治外法権で有事の際に軍事要塞化するのではないかなどと、懸念の声も出ている。
日本の国益を大きく損なう可能性のある新潟市の土地売却問題。なぜ国は中国の行動を放置しているのか。実は中国が日本に言いがかりをつけ、それに参った日本がバンザイをしてしまったという経緯がある。
その“言いがかり”とは、昨年7月に完成した北京の日本大使館をめぐる問題である。日本大使館は8月に中国側に建築確認を申請したが、中国側は申請にない増築があったとして違法建築とみなし、使用を認めなかった。
この時、中国側が持ち出したのが、新潟市と名古屋市の総領事館用の土地の問題だったとされる。中国は日本国内に7つの公館を持っているが、新潟と名古屋を除いては、自らが所有する土地の上に建っている。
中国は、「賃貸」ではなく、恒常的に自由に利用できる「所有」にこだわっているとされる。それを実現するために、日本大使館の使用を許可する代わりに、残る2つの総領事館用の土地を売れともちかけてきたわけだ。
外務省はこのバーターを受け入れてしまう。1月19日付で「日本国内の中国総領事館移転に際し、国際法及び国内法に則った上で対処する」旨の口上書を中国側に渡したのだ。口上書は署名はいらないものの、公式の信書であり、軽々に提出するものではない。
この問題を2月の衆院予算委員会で明らかにしたのが、この問題を追及する自民党の小野寺五典衆院議員だった。
「北京の丹羽宇一郎大使が同行の記者団に『中国に対して口上書を出した』と話したと知り、その内容を確認したら、あまりにも異常なものだった。既に完成しながら入居できずにいた大使館の使用を許可してもらう“裏取引”のために、政府は口上書を出していたのです。それは日本が口上書を提出した2日後に、中国が半年近くも放っておかれた大使館の建築確認を急転直下で下ろしていることからも明らかです」(小野寺氏)
予算委員会での小野寺氏の質問に対し、玄葉光一郎外相は、
「我が方在中国大使館事務所の移転と、中国側の在日公館施設の建設とは別問題との立場を維持した上で、中国側の要請に関連の国際法に従い、中国国内法令の範囲内で協力する立場を表明した。その際、中国側から、日本側の立場を文書に、との依頼があったため、口上書にして中国側に伝えた」
などと答弁。口上書を出していたことを認めた。
玄葉外相は日本大使館の件とは「別問題」としたが、経緯を見れば、「日本政府が中国に尻尾をつかまれて、どう考えても常識外の広大な土地を中国の領事業務に差し出すことへの協力を約束してしまった」(小野寺氏)ことは明白だろう。
中国に言いがかりをつけられ、中国に日本の領土を売り渡すよう便宜を図る。これを、国益を守るべき政府・外務省が行なっているのだから、まさに「売国外交」である(ちなみに名古屋の総領事館の移転に関しては、中国は財務省が所有する国有地の売却を求めているが、河村たかし市長が明確に反対したため、計画はストップしたままになっている)。外務省に改めて質問したところ、
「(土地取得にあたり、事前に相談を受けたりしたことは?)そういうことはありません。(新潟総領事館移設先の広さについては)中国側に対して広大な土地が必要な理由につき説明を求め、現在、引き続き、中国側の回答を待っている状況です」(報道課)
と回答した。しかし、元外務省外交官の天木直人氏はこう断言する。
「総領事館を設置するかどうかを認めるのは外務省。外務省が関与していないというのはおかしい。外務省が出した口上書を1つとっても関与は確実。政府と外務省は外交と主権を放棄しているように見える」
※週刊ポスト2012年6月15日号