ここしばらく、次長課長・河本準一の生活保護問題がさまざまな場所で議論されている。「生活保護制度をより良くすべきだ」という思いを前提としているならば議論を闘わせる意味は大いにあるだろうが、<不適切にもらう人>を批判する側、すなわち<叩く人>の中にも暴走気味の動きが起きている。
『女性セブン』がスクープした「河本問題」を社会的な論議に発展させたのは、自民党の片山さつき・参院議員らだった。国会議員が問題視したことで、国民の生活保護制度に対する理解が深まったのは間違いなく片山氏らの「功績」だろう。
だが、センセイたちの議論はなぜか「ナマポ取り締まり」に走り出した。
5月25日の衆院社会保障・税一体改革特別委員会で、自民党議員が求めた「生活保護費10%カット」に対し、我が意を得たりとばかりに小宮山洋子・厚労相は「自民党の提案も参考にして検討したい」「親族側に扶養が困難な理由を証明する義務を課したい」という見解を示した。
「生活保護問題対策全国会議」事務局長を務める小久保哲郎・弁護士が語る。
「河本さんへの批判に便乗した発言で、看過できるものではありません。制度の在り方は大いに論議すべきですが、法改正を行なえば本当に保護が必要な人々の受給にも支障が出てくる。河本さんの事例は“道義的にどうなのか”という話なのに、それを法改正に結びつけるのは乱暴極まりない」
まさに正論であるが、この展開に霞が関は大喜びしている。財務省中堅がいう。
「社会保障費の削減は財務省と厚労省の宿願。小宮山大臣の発言が人気取りのつもりか、自民党に擦り寄りたかったのかはわからないが、いずれにしてもわれわれとしては早急に法改正に着手する理由ができた。わが省出身の片山議員にも“よくぞ生活保護費の問題をクローズアップしてくれた”と賞賛の声が上がっている」
今回の騒動が拡大した理由を「霞が関の策略」と見るのはさすがに陰謀論が過ぎるだろうが、「吉本芸人問題」が霞が関の狙う社会保障費カットのネタにされたのは間違いなさそうだ。
だが、議員たちのはしゃぎぶりには、「税金から支給される非課税の文書通信交通滞在費を、生活費の一部に使っている議員は多い。年間1200万円という金額を考えれば、タレントの家族の生活保護問題より“不適切受給度”が深刻なのだから、調子に乗りすぎると自分たちに跳ね返ってきかねない」(民主党の若手議員)という声もある。小宮山氏や片山氏らは、この問題にも同じくらいの熱意で斬り込むべきだろう。
前出・小久保弁護士はこう訴える。
「河本さんの件は、生活保護制度が誰のためにあるのかという根本的な問題が無視され、“生活保護は悪だ”という話にすり替えられつつある。実際、生活保護相談を受け付ける支援者団体には“相談をしにくくなった”という電話が増えています。本当に支援を必要とする人たちが最大の被害者ということになりかねません」
※週刊ポスト2012年6月15日号