大阪市の橋下徹市長は週1回の定例会見の他、登庁・退庁時の1日2回、“ぶら下がり”と呼ばれる囲み取材に応じる。そこには30人ほどの番記者が集まる。
そんな番記者たちの脳裏に刻まれるのが、MBSの女性記者が橋下市長に舌鋒鋭く詰め寄られた5月8日の囲み会見だ。「君が代の国歌斉唱」に端を発する口論は、「勉強してから来い」と記者が罵倒される騒ぎになった。大阪市政の動きをウォッチし続け、『橋下徹 改革者か壊し屋か』の著書もあるジャーナリストの吉富有治氏はこう語る。
「ネットでは『橋下さん、その通りだ』『よく言った』との声が多かったんですが、おかしいなって思う場面がたくさんあるんです。例えば記者に『私の質問に答えられないようならこの会見に来るな』と言っている。政治家の説明責任と、記者が読者に対してする説明責任は次元が異なる問題でしょう。橋下さんは論点をすり替えるのが巧い」
口論を公開した動画アクセス数が200万回を超え、記者が所属するMBSへのクレームが殺到したという。
こうした丁々発止は珍しくはなく、実名で記者の名前がツイートされ、罵られることさえある。その度に記者には「反論できなかった」「勉強不足だ」――といった声がぶつけられる。
番記者を擁護するつもりはないが、橋下市長は役所を代弁して意見を述べることができる立場である。一方、記者たちが会社代表として持論を披露することはできないのもたしかだ。
番記者の一人がいう。
「それが記者の弱みだとわかっていて、そこに付けこむのが橋下流。質問には相当神経を使わなくてはいけない。例えば『これから○○さんと会うようですが、何を話す予定ですか』には、『これから話をするんだし相手に失礼じゃないか』と。『皆さん、あの記者にもっと考えて質問するよう教えてあげて』と橋下市長が皮肉った記者がネットで名指しされ、恥を晒されてしまう。記者が発言を躊躇するのも無理はない」
記者クラブでは、いつのまにか厳しい質問を浴びせる機会は減少。橋下市長中心にメディアが回るようになっているという。
※週刊ポスト2012年6月15日号