大阪市の橋下徹市長は週1回の定例会見の他、登庁・退庁時の1日2回、“ぶら下がり”と呼ばれる囲み取材に応じる。そこには30人ほどの番記者が集まる。
「君が代の国歌斉唱」に端を発する口論でMBSの女性記者が橋下市長に詰め寄られた会見では、「勉強してから来い」と記者が罵倒される騒ぎになった。ネットでも女性記者は実名で批判を浴びた。そんなこともあって、いつのまにか厳しい質問を浴びせる機会は減少。橋下市長中心にメディアが回るようになっているという。
本来、記者と政治家は、時に取材者と取材相手の垣根を越えた関わり合いがなされるものだ。だが、各社とも橋下市長と意見を交換できる名物記者は不在である。厖大な情報をフォローするために人海戦術をとる社の方針のため、一対一の関係を築く余裕がない。
全国紙番記者は語る。
「囲み取材に毎日応じているのは、公の取材に答えるから“私”の領域には入ってくるな、というメッセージなんです。記者との懇親会も開かれていないし、夜討ち朝駆けの取材などもってのほか。いつからか市政の名物記者がいなくなってしまった」
ましてや、橋下市長が記者の顔を見ていない。見ているのは、テレビ画面の向こうにいる視聴者なのだ。
新聞記者との距離感が広がる一方、橋下市長が接近したのはテレビだ。在阪テレビ・ディレクターは、「橋下市長が意識しているのはテレビにどう映るかだけですよ」と語った。
「だからカメラが回っていないと、取材にも素っ気ない。政治家ではなくタレントとしての意識を保っているところが躓かない要因。活字よりテレビを好む傾向があります」
民放ローカル局幹部の話では橋下市長が出演すると最低1%視聴率があがるという。だからテレビ側も重宝する。相思相愛の関係だ。市役所関係者が語る。
「橋下市長は基本的には生出演を好む。編集でカットされるのを何より嫌う。ツイッターでの情報発信を好むのも一方的に自分の意見を伝えられるからでしょうね。活字メディアの取材は、書き手によって発言が曲げられる、と考えているんです」
それを記者側も感じるからできるだけ橋下市長の発言をそのまま発信しようとする。その方が橋下市長の機嫌を損ねることもなくネットに晒される危険も少ないからだ。だが、それでメディア本来の役割を果たせているのか。大阪市政の動きをウォッチし続け、『橋下徹 改革者か壊し屋か』の著書もあるジャーナリストの吉富有治氏がいう。
「彼の情報発信力は優れているし、大阪市の実情を伝えていこうという姿勢は評価しているんです。でも、ゆきすぎた面もある。そこに眼を光らせるのが記者たちの責務でしょう。このままでは、それこそ独裁者になってしまう」
※週刊ポスト2012年6月15日号