後ろの迷惑も考えず、はずれ馬券を何回も機械に通すオッサン、ピカソの絵みたいなでかいオカマ、惜しかった馬券をものすごいテンションで見せびらかしてくるオッサン……競馬場は、夢と人生を賭けてやってきた、強烈な人間たちの悲鳴と歓声が渦巻く場だ。
そんなオッサンたちが発する野次や愚痴、嘆息、そして妄言に魅了され、競馬場通いをやめられなくなったというのが、競馬歴26年の放送作家・村瀬健氏。これまで収拾し続けてきた珠玉の野次と、村瀬氏がツッコミを入れた実況中継は、勝った人も負けた人も爆笑必至。厳選4本をぜひご堪能あれ。
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●「勝ったらソープ! 負けたら母ちゃん!」(70代・男性)
おもしろすぎるわ、お前! ていうか70過ぎて現役なん? 絶倫大王か、お前! 「でも母ちゃん、もう飽きたしな!」。母ちゃんもっと大事にしたれよ、お前!
この人は結局、負けました。母ちゃんの体が壊れていないことを、願わずにはいられません。
●「負けるんわかってるから、先にやけ酒飲んできた!」(50代・男性)
意味わからん! 普通の酒やろ、それ! まだ負けてないんやから荒れたくても荒れようないやろ!
「飲みすぎてもう一銭もないわ!」。家いとけや、じゃあ! 家で母ちゃんの相手でもしたれやたまには! そこでは荒れてもええからよ! 荒れたほうがむしろ母ちゃん喜ぶからよ!
このオッサンは、ベロンベロンです。足元がフラフラで柱にぶつかったのですが、その柱に「ごめん」と謝ってました。
いよいよゲートイン。旗が振り下ろされ、各馬一斉にスタートを切ると、オッサンの野次も暴走開始!
●「差せ! 差せ! 差さないと、わしが刺すぞ!」(60代・男性)
怖すぎるわ! 完全に殺人予告やんけ、これ!
「チキショー! もっと荒れろやコラ!!」。お前が荒れとるやんけ! 馬券じゃなくてお前が荒れとるやんけ!
この人は直線になると、毎回、声を張り上げます。しまいにはゴール後の騎手に近づき、「お前の嫁さん、鼻曲がってる!」と叫んだのです。
嫁は関係ないやろ! 家族にまで野次飛ばすなよ! そもそも鼻曲がってるってなんやねん!
レースが直線に入ると、もはやオッサンの野次は誰にも止められない。
●「あかん、差し歯買う金なくなった!」(50代・男性)
ギャンブルなんてすんなよ、お前! まず差し歯を買って金に余裕があったらギャンブルせいや!
「(直線で)差せ! 差せ!」。お前がまず差せ! 馬に差してもらうんはお前の歯を差してからや!
「抜け! 抜け!」。歯抜けとるやろ、お前! これ以上抜けたらますます金足らんようなるやろ!
このオッサンはたこ焼き屋をやっています。たこ焼きは、8個200円。材料の値上げが度重なっても「お客さんに悪いから」と言って値上げしなかったのですが、差し歯を買うお金をなくした翌週、10個400円になってました。
●村瀬健(放送作家)Twitter:@baskobasko
※週刊ポスト2012年6月15日号